研究課題/領域番号 |
18H03880
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
三輪 真嗣 東京大学, 物性研究所, 准教授 (20609698)
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研究分担者 |
南谷 英美 分子科学研究所, 理論・計算分子科学研究領域, 准教授 (00457003)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | スピントロニクス |
研究実績の概要 |
3つのサブテーマに対して、次の事柄を行った。 (A)(B)まずMn系合金を用いたトンネル接合の作製を試みた。これについては他の元素と異なり結晶構造及びスピン構造が安定せず、well-definedな界面状態の形成が必須の電界効果研究に向かないと判断した。次に前年度の検討で最も電界効果が大きかったIr合金について化学秩序と電界効果の相関を明確化した。超高真空下での蒸着法によりFeとIrを一原子相当分ずつ交互に蒸着し、Fe/MgO系においてIr挿入を位置・量ともに変化させ、電界効果を精査した。結果として0.5原子層分のIrをMgOから2層目に位置させると電界効果を最大化されて300 fJ/Vmとなることを見出した。2層目にIrが位置することの最適性については、X線吸収分光及び第一原理計算による検討を行った。結果としてIrがMgO再隣接でなく2層目に位置することにより、電界効果の2機構である軌道磁気モーメント機構と電気四極子機構の相殺が緩和され、電界効果が増強されることが見出された。 (C)前年度はFe/CoPc/MgO系の膜評価を行った。そこで本年度はFe/CoPc/MgO薄膜を磁気トンネル接合デバイスに加工し、マイクロ波を用いたスピントルク強磁性共鳴法を用いて高速な電界効果を評価した。結果としてCoPcによる垂直磁気異方性増強は高速応答性のもののみに反応するスピントルク強磁性共鳴法においても再現することがわかった。電界効果の大きさは予想に反してFe/MgO系同等であったため、第一原理計算による再検討を行った。結果としてFeにおいては多数スピンバンドの電子状態が重要であることがわかった。これは分子と強磁性金属の接合系がこれまでの知見で説明できないことを示唆しており、実験の再検討も含めて調べていく必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「(A)高スピン軌道相互作用材料の開発」では有効な元素が明確になった。「(B)化学秩序制御による電気四極子機構の最適化」ではFeとIrの合金を用いて、当初の予想通り化学秩序制御により電圧効果を増強できることを実証した。「(C)機能性分子修飾による磁気双極子機構の最適化」では実験結果が予想と異なったが、これは新しい機構の発見につながる可能性を示しており興味深い結果である。このように全体として、研究は当初の予定通り順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度がプロジェクト最終年度である。従って次の方策により体系的理解を得る。「(A)高スピン軌道相互作用材料の開発」では有効な元素が明確になり、既に当初の目的を達成している。そこで基本元素であるFe, Co, Niの中で電界機構に関して実験検証ができていないFe及びNiに対する理解をX線吸収分光を用いて得ることに注力し、電界効果の体系的理解を実現する。「(B)化学秩序制御による電気四極子機構の最適化」はプロジェクトの目標をほぼ達成したため、他の項目にリソースを集中して割く。「(C)機能性分子修飾による磁気双極子機構の最適化」では分子の効果が理解できていないため、X線磁気円二色性分光を精度よく行うこと、そして第一原理計算において多数スピンバンドと少数スピンバンドの影響の分離・二次摂動エネルギーの分離を行って実験結果と照らしあわせることで実効的に何が起きているかを明確にする。これにより適切な分子設計への提言ができるはずである。
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