研究課題/領域番号 |
18H03881
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
鵜澤 佳徳 国立天文台, 先端技術センター, 教授 (00359093)
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研究分担者 |
小嶋 崇文 国立天文台, 先端技術センター, 准教授 (00617417)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | SIS接合 / アップコンバージョン利得 / Nb/AlOx/Nbアップコンバータ / フォトンアシステドトンネリングステップ |
研究実績の概要 |
本研究は、超伝導体-絶縁体-超伝導体(SIS)接合の新たな可能性を見出すために、周波数アップコンバータとしての性能を明らかにし、さらに応用することを目指している。 初年度の2018年度にTuckerの量子論的ミキシング理論を周波数アップコンバージョンに適用したシミュレータの構築、SISアップコンバータの設計・解析に必要な接合容量などのパラメータの実験的導出、さらにネットワークアナライザを用いたミリ波帯SISアップコンバータ実験系を整備した。2019年度は、ミリ波帯実験系を用いて、国立天文台で作製したNb/AlOx/Nbアップコンバータのアップコンバージョン特性について測定を行った。その結果、SISアップコンバータの第一フォトンアシステドトンネリング(PAT)ステップの負性抵抗領域において最大利得が得られた。この結果は、理論計算と良く一致するが、実用ではインピーダンス整合が困難となるため、増幅器の設計においては、入力インピーダンスを考慮した注意深い工夫が必要となることが明らかになった。 また、Nb/AlOx/Nb接合の最小アップコンバージョン周波数を検討した。実験的に得られる代表的な電流-電圧特性をシミュレータに取り入れた結果、40 GHz程度でも量子論的コンバージョン利得の可能性を示したが、実際には利得に必要となる明瞭なPATステップを安定して得ることが困難であった。したがって、増幅器への応用では100 GHz程度の高い周波数とする必要がある。さらに4 Kより高い動作温度の可能性としてNbNを検討した。NbN接合のギャップ電圧の電流立ち上がり幅は、準粒子寿命による本質的な「なまり」が存在することが明らかになった。この結果からNbNの場合には、高温動作が期待できる反面、Nbよりさらに高い周波数を用いる必要がある。低雑音増幅器としての応用を考えた場合、Nbが有利である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の全体計画は、以下の通りである。SIS接合による準粒子アップコンバージョンミキサの数理モデルの構築、マイクロ波からミリ波へのアップコンバージョン特性評価系の構築、さらに理論計算をベースに設計・試作するSISアップコンバータに対して実験・解析を行うことで、世界に先駆けてSIS接合の量子論的周波数アップコンバージョン過程を明らかにする。さらに本研究によるSISアップコンバータと従来のSISダウンコンバータを縦続接続させた革新的なマイクロ波増幅器への応用に発展させる。このため研究課題を(1)アップコンバージョン理論解析(理論)、(2)アップコンバータ特性評価(実験)、(3)高周波増幅器性能実証(応用)に分け、研究分担者、研究協力者と共に3年間で研究を実施する。 2018、2019年度で、(1)、(2)を着実に実施した。具体的には、Tuckerの量子論的ミキシング理論のよるシミュレータの構築、SISアップコンバータの試作および測定系の構築を行った。試作したSISアップコンバータは、PATステップの負性抵抗領域において最大利得が得られ、理論計算結果と一致した。しかしながら、インピーダンス整合の観点からは、通常の50 Ω系との整合が困難となることから、研究課題(3)における増幅器の設計においては、入力インピーダンスを考慮した注意深い工夫が必要となる指針が得られた。また、低雑音増幅器実証に重要となるLO周波数の選択や超伝導材料についても検討を行い、それぞれについて指針が得られた。 上述の成果を、Low Temperature Detector Conference等の国際会議や国内会議で発表を行った他、学術論文にまとめて投稿し、Journal of Low Temperature Physicsに複数編が掲載可(電子版では掲載)となり、計画通りの進捗があったと言える。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる2020年度は、これまで獲得した知見、技術をSISアップコンバータ設計へ反映させ、従来のSISダウンコンバータを縦続接続させた革新的なマイクロ波増幅器への応用に発展させる。このために、構築したシミュレータを用いて、SISアップコンバータの入力インピーダンス整合と利得を最適化し、増幅器全体として低雑音動作するよう設計する。設計に基づき、天文台のクリーンルーム施設を用いてSIS接合素子を試作する。素子をマウントする増幅器ブロックの試作を行い、マイクロ波増幅器評価系を構築する。各種特性評価を行い、解析結果を素子の設計試作にフィードバックすることで、世界初のSIS接合を用いたマイクロ波アンプの低雑音動作の実証を目指す。得られた成果を順次取りまとめ、国内外の学会発表や論文発表を行う。2020年度は、米国サンディエゴで開催予定のSPIE Astronomical Telescopes + Instrumentation等で成果発表を行う。
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