研究課題/領域番号 |
18H03882
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
笹木 敬司 北海道大学, 電子科学研究所, 教授 (00183822)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | プラズモニクス / ナノフォトニクス / 光渦 / 遷移ダイナミクス |
研究実績の概要 |
デザインした金属多量体ナノギャップ構造に光渦ビームを照射することにより、光をナノ空間に絞り込むとともに光電場の振幅・位相分布をシングルナノスケールで制御し、分子の電子波動関数の「サイズ」と「形状」にマッチングさせることによって光遷移ダイナミクスの自在な制御を実現する新奇な手法を創製している。これは、局在ギャッププラズモンを介して光渦のスピン・軌道角運動量を分子の電子軌道運動に転写するという我々独自のアイデアに基づくものである。本手法を用いれば、禁制遷移の高効率・選択的な励起が可能となるだけでなく、プラズモニックナノ渦場の形状によって許容遷移を禁制にすることも可能となり、遷移過程の選択則を完全に打ち破る光励起プロセス制御が実現できる。本研究は、光と物質の相互作用の研究に新しい領域を拓くとともに、光機能デバイス・非線形光学システム・分子形状センシング等の研究においてブレイクスルーとなりうる新しい展開が期待できる。これまでに、1)光ナノ渦場における分子励起プロセスの高速・高精度シミュレーション解析手法の開発、2)3次元光ナノ成形制御システムの構築と光ナノ渦場特性解析について研究を進めており、分子の電気四重極子、電気六重極子、磁気双極子等の禁制遷移の励起効率、および双極子遷移プロセスの抑制効果のシミュレーション解析や光の局在性・共鳴特性の解析やキラリティーの制御特性の分析において研究成果が挙がっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)光ナノ渦場における分子励起プロセスのシミュレーション解析 金属多量体構造のナノギャップ部に擬似分子を配置して光渦を照射したときの3次元電磁界分布および分子励起プロセスを高速・高精度に数値計算する新しいシミュレーション解析手法を開発した。本手法を用いて、分子の電気四重極子、電気六重極子、磁気双極子等の禁制遷移の励起効率、および双極子遷移の抑制効果について、金属ナノ構造の形状・対称性・サイズをパラメータとして解析を行い、分子遷移ダイナミクス制御に最適な金属ナノ構造をデザインするとともに、3次元光ナノ成形制御システムの設計を行っている。また、光子から分子へのスピン・軌道角運動量・全角運動量の転写やキラリティー保存・変換特性について理論的に考察中である。 2)3次元光ナノ成形制御システムの構築と光ナノ渦場特性解析 電子線描画装置を用いたリソグラフィー技術により金多量体ナノギャップ構造を設計に基づいて製作するとともに、空間位相変調器を用いて半導体レーザーのガウス光を光渦にモード変換し、金ナノ構造体に集光するシステムを構築した。また、既に我々が開発したシングルナノメートル(<10 nm)の空間分解能を有する散乱型近接場顕微鏡を用いて、ギャップ部における光電場の強度分布、偏光状態を高感度・高精度に計測して、開発した光ナノ成形制御システムの性能評価を行った。さらに、スペクトル特性を解析するために高輝度白色光源と分光器を用いて波長を掃引すると同時に、空間位相変調器を制御して分散補正した光渦ビームを発生させるシステムに拡張することにより、光の局在性・共鳴特性の解析やキラリティーの制御特性の分析を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
分子励起プロセスを高速・高精度に数値計算する新しいシミュレーション解析手法により、分子の電気四重極子、電気六重極子、磁気双極子等の禁制遷移の励起効率、および双極子遷移の抑制効果について解析を引き続き行う。具体的には、分子の遷移双極子モーメントや体積、ダンピング定数などのパラメータを精査して励起スペクトルの解析を行い、遷移ダイナミクスを明確に表現する手法を検討する。また、分子の配置位置や照明する光渦の軸ズレなどの効果についてもシミュレーションから定量的に解析を行う。さらに、光子から分子へのスピン・軌道角運動量・全角運動量の転写やキラリティー保存・変換特性についての理論を体系的にまとめる。 光ナノ成形制御システムにより、これまでの常識を打ち破る物質の光励起ダイナミクスや光反応プロセスを実現する。まず、近接場顕微鏡プローブのラマン散乱を観測することにより、禁制遷移励起とそのナノポジション依存性について詳細に解析する。次に、光学特性がよく知られている発光性ポルフィリン多量体を金ナノギャップ構造体上に修飾し、四重極子・高次多重極子の遷移周波数で励起して蛍光像を観察する。光渦のスピン・軌道角運動量を変化させたときの選択的な発光特性から禁制遷移・許容遷移の光励起コントロール性能を実証する。さらに、フェムト秒時間分解分光計測により光遷移ダイナミクスを詳細に解析し、高効率・高収率光反応プロセスへの応用展開について検討する。また、光電場分布のナノ形状をコントロールしながらナノギャップ構造の金自身のSHGシグナル特性を解析する。
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