研究課題/領域番号 |
18H03884
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
尾松 孝茂 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (30241938)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 光渦 / 特異点光学 / 非回折光 / 光重合反応 |
研究実績の概要 |
螺旋(あるいは右手と左手)のように立体構造がその鏡像と空間的に重ならない性質をキラリティーと呼ぶ。研究代表者は、極微弱な光渦をモノマーに照射するだけで、光重合してできた超巨大な質量(光圧研究で使う微小球の>100倍の質量)のファイバーが光渦の角運動量の向きに自発的に捩じれ、螺旋ファイバーに自己組織化すること(光渦が誘導するキラルな超巨大質量移動)を発見した。しかし、現象のメカニズムの詳細は全く分かっていない。化学反応を光渦で物理的に刺激することで起こる超巨大キラル質量移動の学理を解明できれば、間違いなく光科学・物質科学・デバイス工学にパラダイムシフトをもたらす。 本研究では、「光渦が誘導する超巨大キラル質量移動」の学理を探究するとともに、光渦を固有モードとするファイバーレーザー・微粒子マニピュレーター・近接場プローブ・キラリティーセンサーなどのキラルな新奇光学素子(キラルデバイス)の創成を目指す。その成果に基づき、「光渦が誘導する超巨大キラル質量移動の学理に立脚したキラルデバイス工学」という新学術領域を開拓する。 本年度は、螺旋ファイバーの長さを延長するため、散乱損失・吸収損失の少ない可視レーザーを用いた光重合実験を実施した。また、非回折性を示す光渦である高次ベッセルビームを用いることでより効率よく空間ソリトンを発生させることを試みた。その結果、全長で1センチメートルを超える長尺螺旋ファイバーを創成することに成功した。ファイバーの捩じれ間隔が入射する光パワーに依存しないことから、軌道角運動量がファイバーを力学的に捩じっていることが分かった。現在、結果をまとめ論文執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
散乱損失・吸収損失の少ない可視レーザーの使用、非回折性を示す光渦である高次ベッセルビームの使用により、全長で1センチメートルを超える長尺螺旋ファイバーを創成することに成功した。ファイバーの捩じれ間隔が入射する光パワーに依存しないことから、軌道角運動量がファイバーを力学的に捩じっていることも分かった。これらの研究成果は当初の研究計画で提示したいくつかの学術的課題を解決するものである。そのため、研究の進捗状況は順調であると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、散乱損失・吸収損失は極限まで低減して螺旋ファイバーの長さをさらに延長するため、多光子吸収過程を活用する。その結果から、多光子過程によって軌道角運動量が物質にどのように転写されるのかという学術的課題を解明する。さらに、2次以上の高次ベッセルビームを用いることで、螺旋ファイバー創成の過程における軌道角運動量の作用を明確にする。高次ベッセルビームの非回折性により、より安定に螺旋ファイバーの捩じれ間隔などが定量化できるため、軌道角運動量がファイバーに与える力学的効果という学術的課題の解決につながる。
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