研究課題/領域番号 |
18H03886
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
洪 鋒雷 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (10260217)
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研究分担者 |
和田 雅人 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 研究員 (20635817)
赤松 大輔 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 主任研究員 (90549883)
吉井 一倫 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 助教 (90582627)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | レーザー分光 / 周波数安定化レーザー / 光コム / 原子・分子物理 / 超精密測定 / 量子エレクトロニクス |
研究実績の概要 |
ヨウ素分子吸収線の信号対雑音比及び線幅の最適化のために、ヨウ素セル内のヨウ素の圧力を自由に設定できるようにする必要がある。我々は、セルのコールドフィンガーの温度を低い温度に下げられるような温調機構を2種類設計・製作した。まず、従来の温調機構にシリコンゴムの全面カバーなどの改良を加えることで、温調機構の結露を防ぎ、-20℃以下という従来より10℃低い到達温度を実現した。 レーザーの狭線幅化を行うために、光ファイバーマイケルソン干渉計構築する必要がある。ファイバー遅延線を用いたマイケルソン干渉計においては、密閉化、真空化、温度安定化、防音、および除振された安定な環境に光ファイバーを設置することで、実験室環境と比べ、10 Hz以下のファイバーノイズを30 dB以上低減できることがわかった。 狭線幅かつ高安定な周波数安定化レーザーの応用においては、高速制御型の狭線幅光周波数コムの実現が不可欠である。我々は、モード同期エルビウムファイバーレーザーのリング共振器内に小さなファイバーピグテール付きの光学ベンチを挿入し、そこに自由空間型電気光学変調器及び小型光学部品を取り付けることで狭線幅光周波数コムを実現した。達成した制御帯域が約850 kHzで、レーザーの線幅や周波数安定度の評価も行った。 我々はさらに、光コムのマルチブランチ化を図り、1つのモード同期レーザーから8ブランチの光周波数コムの発生を実証した。また、レーザーの線幅とヨウ素分子吸収線の線幅との関係を調べるために、コインサイズの半導体レーザーを用いたヨウ素分子の精密分光と周波数安定化を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は、ヨウ素分子吸収線の信号対雑音比及び線幅の最適化のために、ヨウ素セルのコールドフィンガーの温度を低い温度に下げられるような温調機構を2種類設計・製作した。従来の温調機構にシリコンゴムの全面カバーなどの改良を加えることで、-20℃以下という従来より10℃低い到達温度を実現している。このことから、ヨウ素セルのコールドフィンガーの温調機構の設計・製作は計画通りに進んでいる。 また、ファイバー遅延線を用いたマイケルソン干渉計においては、安定な環境に光ファイバーを設置することで、実験室環境と比べ、10 Hz以下のファイバーノイズを30 dB以上低減できることを見出している。このことから、レーザーの狭線幅化に必要なファイバー遅延線を用いたマイケルソン干渉計においても、計画はおおむね順調に進んでいると考えている。 さらに、高速制御型の狭線幅光周波数コムの実現において、モード同期エルビウムファイバーレーザーのリング共振器内に小さなファイバーピグテール付きの光学ベンチを挿入し、そこに自由空間型電気光学変調器及び小型光学部品を取り付けることで狭線幅光周波数コムを実現している。達成された制御帯域、レーザーの線幅及び周波数安定度の総合評価により、この狭線幅光周波数コムは、狭線幅かつ高安定な周波数安定化レーザーの光を光コムのカバーするすべての波長域に転送できることがわかった。さらに、光コムのマルチブランチ化及びレーザーの線幅とヨウ素分子吸収線の線幅との関係の研究成果を合わせて考えると研究計画が順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
レーザーの周波数安定化において、長時間運転が可能でメンテナンスフリーという実用性の観点を捉え、光時計などの応用で必要となる狭線幅かつ高安定なレーザーを、原理から実証まで研究を進める。そのために、光ファイバーマイケルソン干渉計によるレーザーの狭線幅化とヨウ素分子吸収線によるレーザーの周波数安定化のハイブリッド安定化方式を研究し、その実現可能性を明らかにする。また、システムの評価と改良により、長期連続運転可能な光周波数中継器を実現し、光時計への応用を実証する。さらに、より短い波長帯のヨウ素吸収線を探索し、ガスセルによる安定化としては未踏の周波数安定度の実現を目指す。 今後は、2 mヨウ素セルを用いて、セル内のヨウ素圧力を下げて、狭い吸収線幅と高い信号対雑音比を同時に実現した上で、ヨウ素分子の超微細構造信号によるレーザー周波数の安定化を実施する。また、ヨウ素安定化レーザーの周波数安定度評価を行い、繰り返しによる周波数の再現性、周波数不確かさ評価及び絶対周波数計測を実施する。 レーザーの狭線幅化に必要な光ファイバーマイケルソン干渉計の研究においては、それぞれの環境要因がもたらす位相雑音の評価を行う。また、位相雑音を引き起こす主な環境要因を抑えたときにレーザーの狭線幅化どのような影響を与えるのか、このような評価も行う。 さらに、周波数の安定化を行う上で欠かせない位相変調において、残留振幅変調の存在が安定化に悪影響を与えている。残留振幅変調の低減に関する研究も行う予定である。
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備考 |
洪研究室 横浜国立大学 http://hong-lab.ynu.ac.jp/
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