研究課題/領域番号 |
18H03887
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
川瀬 晃道 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (00296013)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | テラヘルツ波 / 非線形光学 / パラメトリック発振 / 分光 |
研究実績の概要 |
前年に引き続き、is-TPGの10波長程度の高安定な多波長発生を目指した。テラヘルツ波帯の試薬の吸収線幅は100GHz以上あるため、10波長で応用上重要な1-2THz帯をカバーすることで必要十分な周波数分解能が得られる。多波長発生により、波長可変が不要となり、測定時間が大幅に短縮された。また、1パルスで分光するため出力ゆらぎを無視でき、多数パルスの平均化が不要になった。これらにより、励起レーザーの繰り返しレートでリアルタイムにワンパルス分光を可能とした。励起光と種光(注入光)をMgO:LiNbO3結晶に入射することで、注入光と同一波長の近赤外光(アイドラー光)、および励起光とアイドラー光の差周波に相当するTHz波が,光パラメトリック相互作用により強力に発生する。その際、入射する注入光の波長と角度をLiNbO3結晶の角度位相整合条件を満たすように制御すること、広帯域波長可変性が得られるが、今年度の我々の研究では、注入光10波長を高速で切り替えることにより実用的かつ安定な多波長テラヘルツ波発生を確認できた。 従来では注入光源として、市販の外部共振器半導体レーザー(ECDL)を使用しているため、波長を高速に変化させることができず、リアルタイムでの測定が困難だった。この問題を解決するために、我々が構築した波長選択機構としてデジタルマイクロミラーデバイス(DMD)をECDLに導入した。DMDとは、マイクロミラーをアレイ状に配置し、各ミラーを独立して制御できるMEMSデバイスのことである。DMDを用いたECDLについては、いくつかの論文が報告されているが、それらに比べて我々のECDLは75dB以上の高いS/N比を有し、かつ300 mW近い出力が得られることからis-TPGの多波長注入光源として最適であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年9月までに、光学系準備、注入光の高速切り替え方式の開発、高速切り替え方式のis-TPGへの導入を行い、令和3年3月までに10波長程度の高安定な多波長発生、実用的かつ安定な多波長テラヘルツ波発生を行う予定であったが、令和2年4月以降、新型コロナウィルスの影響で、大学閉鎖、研究室閉鎖など長期間にわたり研究が滞った。そのため、やむを得ず高速切り替え方式のis-TPGへの導入以降の研究を次年度に繰り越し、令和3年7月までに、10波長程度の高安定な多波長発生、実用的かつ安定な多波長テラヘルツ波発生を達成できた。
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今後の研究の推進方策 |
郵便物に隠された禁止薬物や、薬局で手渡される処方薬を、開封することなくチェックできる技術は、世界で唯一、我々が開発している光注入型テラヘルツ波パラメトリック発生器(is-TPG)のみである。テラヘルツ波以外の技術ではそれを実現できておらず、また数あるテラヘルツ技術の中でも、我々のis-TPGのみが厚手の遮蔽物越しの分光検査を達成している。最近我々は、世界に先駆けて多波長is-TPGに成功し、さらに多波長テラヘルツ波を検出側で角度の異なる多波長近赤外光に変換してCCDカメラで撮像する手法で、ワンパルス高速分光への道を拓いた。本研究では、引き続きこれらの予備実験による成果を融合し、ワンパルス高速テラヘルツ分光システムを開発し、従前より期待されているリアルタイムでの郵便物検査や処方薬検査、および医薬錠剤・粉末の製造過程での全数検査等に資する基盤技術の開発を進める。
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