研究課題/領域番号 |
18H03896
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
木口 学 東京工業大学, 理学院, 教授 (70313020)
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研究分担者 |
金子 哲 東京工業大学, 理学院, 助教 (10738537)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 単分子接合 / 機械的応力 / 電流―電圧特性 |
研究実績の概要 |
新しい単分子計測法の開発および単分子接合の物性変調で研究成果が得られた。特に、単一π分子に機械的応力を与えた際の電子状態計測で顕著な成果を得た。実験では、ブタンジアミン、ピラジン、ビピリジン、フラーレンを吸着させた金の単結晶基板に、同じく金のSTM探針を近づけ、電流―電圧特性の計測を行った。そして単分子接合のI-V特性から電子状態を決定した。ジアミノベンゼンでは、伸長距離が変わっても分子軌道のエネルギーはほとんど変化しなかった。ピラジンとビピリジンは、似た挙動を示し、伸長距離が短い領域では、距離に従って分子軌道は低エネルギー側にシフト後、その後はあまり変化しなかった。フラーレンでは、逆に伸長距離が短い領域では、距離に従って高エネルギー側にシフトし、その後一定値となった。この傾向は、計算結果でも再現できた。接合する分子によって、分子軌道のエネルギーシフトの様子は異なったが、この結果は金属と分子間の結合様式によって説明することができた。例えば、ジアミノベンゼンの場合は、分子の窒素原子が電極の金原子とσ結合で結合している。σ結合は窒素と金の原子間距離にのみに依存し、金属電極における分子の配向などに依存しない。そのため、電極間距離が変わっても軌道の重なりはあまり変化せず、分子軌道のエネルギーはあまり変化しなかったと考えられる。ピラジン、ビピリジン、フラーレンの場合についても同様の考察をすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
現在までに、機械的応力を与えた際の単分子接合の電子物性の変調、そして単分子接合の新しい計測法の開発を行った。新しい計測法に関して、単分子接合の表面増強ラマン散乱(SERS)と電流―電圧特性(I-V)の同時計測により、単分子接合の界面構造が出来ることが明らかになった。アミノベンゼンチオール単分子接合について同時観測した結果、伝導度によって振動数が変化することが分かった。アミノベンゼンチオール単分子接合における、ラマンシフトとI-Vから決定した電気的な金属―分子カップリング強度の相関図を解析した所、振動数が小さく、カップリングが大きい状態(状態1)と、振動数が大きく、カップリングの小さな状態(状態2)が観測された。モデルクラスターを用いて、電気的なカップリングと振動数を求め、実験結果と比較することで、状態1がbridgeサイト、状態2がhollowサイトに帰属することができた。ここで強調したいのは、振動数およびカップリング強度単体では分離出来なかった2つの吸着状態を、SERSとI-Vの情報を組み合わせることで、初めて分離出来たことである。SERSとI-Vの解析から、単分子接合における分子の吸着サイトを決定出来ることが分かったので、本手法を吸着サイトの時間変化の解析に適用した。その結果、hollowからbridgeに時間と共に吸着構造が変化している様子を明らかにすることも出来た。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、原子間力顕微鏡にSERS, I-V, 熱起電力の計測ユニットを組みこんだ装置を構築し、応力下の物性計測を行う。分子としては、HOMO-LUMOギャップが小さく、軌道が3次元かつ分子全体に広がっているフラーレン、コイル状のヘリセンなどを用いる。単分子接合では分子と電極の接触面積は0.1nm2程度で、10nNの力を与えるだけで局所的に100GPaの圧力を与えることが出来る。100GPaは水素が金属化する圧力である。通常実現しえない圧力、金属-分子間距離にする事で、新物性・機能を発現させる。 単分子接合の伝導度はフェルミ準位と分子軌道のエネルギー差に依存し、熱起電力はフェルミ準位における状態密度の勾配に依存する。孤立分子で離散的な分子軌道は、単分子接合において金属と相互作用することでエネルギーシフトし広がる。応力により金属-分子間距離つまり相互作用の大きさを変えることで、分子軌道のエネルギーシフト、広がりを制御する。状態密度が急激に変化する位置まで分子軌道をシフト出来れば、巨大な熱起電力が発生する。さらにシフトさせEFと分子軌道を一致出来れば、透過率100%まで伝導度は向上する。そして対称分子を用いても、左右の電極形状を非対称にし相互作用の大きさを変えることで、整流特性を発現出来る。 また圧力を時間的に変化させることで、伝導度、熱起電力のスイッチ、メモリなどの機能を創出する。実際、我々はAu原子接点を用いて、応力を調整し正負両極性の熱起電力を発生させる事に成功している。また理論計算によりヘリセン単分子接合に応力を与えることで、熱電材料として有名なBiTeを超える値が得られることが予想されている。単分子接合に応力を与えることで、新物性・機能を発現させる。同時計測により物性・機能発現機構を解明すると共に、単分子接合の設計に還元し物性、機能を向上させる。
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