研究課題/領域番号 |
18H03897
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
大島 康裕 東京工業大学, 理学院, 教授 (60213708)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 分子分光 / 回転コヒーレンス / イオンイメージング / 分子クラスター |
研究実績の概要 |
本研究は、赤外・紫外分光に匹敵する高い検出感度を有し、振動・回転準位はもとよりトンネル分裂なども明確に観測しうる分解能を持つ新規分光法である量子波束イメージング分光の開発を目的としている。 本研究の遂行の上では、分子種や量子状態の選別が最重要課題であり、そのために「静電deflector」を用いる。静電deflectorでは、超音速ジェットにより極低温に冷却された気体分子試料を不均一電場中を通過させることにより、空間的に分離する。令和元年度までにdeflectorの制作ならびに分子線実験用真空槽への設置を完了し、NH3の単一量子状態を空間的に選別することが可能であることが確認できた。令和2年度は引き続き、反転トンネル分裂の各成分ごとに空間分離したNH3分子に対してマイクロ波を照射する実験を行った。質量選別共鳴多光子イオン化によって回転状態選別的に分布を計測したところ、マイクロ波のパルス幅に依存して周期的に変動することが観測され、トンネル分裂した2準位のコヒーレントな結合が実現されていることを確認できた。 さらに、時間分解クーロン爆発イメージングを用いた、分子クラスターの時間領域回転スペクトルの測定も、令和元年度に引き続いて行った。特に、長い遅延光路を組み込んだ光学系を用いることにより、CH4の2量体とその同位体種であるCD4の2量体について、高い周波数分解能でのスペクトル測定を行った。両者における実効的な分子間距離は有意に異なり、クラスター内におけるメタン分子の配向に対して最安定分子間距離が異なる効果によるものと解釈された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「静電deflector」を用いて、NH3について単一量子状態を空間的に分離した上で、マイクロ波パルスを照射することによってトンネル分裂した2準位をコヒーレントに結合することを実現した。本成果は、大振幅振動の典型であるアンモニア分子のカサ反転運動に対応する量子波束の生成を意味するものであり、大振幅振動波束のイメージングへつながる重要なステップといえる。 回転ならびに振動運動の時空間イメージングの研究の一環として、遅延時間をより長くとることによって、対応する周波数分解能を向上させることに取り組んできている。この高い周波数分解能による計測をCD4の2量体に適用し、分光定数を精度よく決定することができた。この点で、本手法の汎用性を検証できたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
NH3について、「静電deflector」により反転運動によるトンネル分裂の2つの成分を空間的に分離した上で、マイクロ波照射によってトンネル分裂成分をコヒーレントに結合し、反転振動に関する量子波束を生成することまで実現できた。最終年度は、研究の総まとめとして、時間分解クーロン爆発イメージングを導入することにより、大規模な構造変形運動である反転振動の実空間観測を目指す。 分子クラスターにおける回転ならびに振動運動の時空間イメージングに関しては、(N2)2および(CH4)2に対する観測結果をもとに、国内外の理論研究者と協力して高精度な分子間ポテンシャルの決定と波束ダイナミックス計算を行いたい。また、アセチレン、エチレン、プロペンなどの炭化水素の2量体についても時空間イメージングによる回転スペクトル計測を行い、炭化水素2量体の構造について系統的に探索を進める。さらに、分子間振動に由来する高周波数振動成分の計測に挑戦し、低波数ラマン分光に関する新規計測法として確立を目指す。
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