研究課題/領域番号 |
18H03901
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
寺嵜 亨 九州大学, 理学研究院, 教授 (60222147)
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研究分担者 |
安池 智一 放送大学, 教養学部, 教授 (10419856)
荒川 雅 九州大学, 理学研究院, 助教 (10610264)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 金属クラスター / 電子構造 / 電子励起 / 電子局在/非局在 / s-d電子相互作用 / 表面プラズモン共鳴 |
研究実績の概要 |
電子励起の集団性について、銀クラスターを対象として実験を進めた。特に、紫外から赤外にわたる広波長域を発生する波長可変レーザーを新たに導入し、従来330~280 nmに限定されていた測定波長域を400~250 nmへと広げて、光解離スペクトルを測定した。測定サイズにおいても、当初50量体までとしていた計画を大きく超えて、70量体までの網羅的なデータを得た。測定の結果、20量体程度までの小さなサイズのスペクトルはサイズ毎に大きく変化し、分子軌道間遷移が顕著に現れた。一方、大きなサイズでは300 nm近傍にスペクトルが集中し、サイズとともにピークの位置や幅、さらに分裂などの変化が見られた。これらは集団励起の特徴と考えられ、スペクトル形状の変化から、球形や楕円体など、クラスターが形を変える様子を捉えたと解釈した。 これら吸収スペクトルの理論解析を並行して進めた。10~30量体のいくつかのサイズについて量子化学計算を行い、光吸収線に関与する素励起(分子軌道間の遷移)の数を示す指標であるCollectivity indexを評価した。実験結果との対応づけが今後の課題であるが、電子の集団励起発現の起源に迫るための理論評価方法の道筋を整えた。 一方で、s-d電子相互作用について、3d遷移金属原子(Sc~Ni)を添加した銀クラスター正/負イオンを対象として反応性の評価を行った。酸素分子との反応で、d電子を含めた18電子系で反応性が特異的に低下する現象が多くの場合に見出され、d電子の非局在化が示唆された。例外の一つとなったのが小さなサイズ領域であり、遷移金属原子が銀原子で取り囲まれることが非局在化の機構として重要であることを突き止めた。また、一酸化窒素分子との反応では、単純な分子吸着ばかりでなく、クラスター上で多数の分子が互いに反応する現象が見出され、予期しなかった成果を上げた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
銀クラスターイオンの光解離スペクトル測定について、当初50量体までと想定していた計画を大きく超えて、70量体までのサイズについて網羅的なデータを得た。高性能な波長可変レーザーの新規導入によって研究が加速され、計画以上に進展した。
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今後の研究の推進方策 |
銀クラスターイオンの光解離分光で、14量体を超えるサイズでは多光子解離が起きることが見出され、今後、多光子解離スペクトルを一光子吸収スペクトルと関連づけることが課題となっている。そのために、光解離に依らず光吸収を直接捉える光閉じ込め分光を開始し、一部のサイズに対して既に実施した。今後、未測定のサイズに対しても光閉じ込め分光を実施し、吸収断面積の定量的な測定と、限定的な波長域とはなるが、スペクトル形状の測定を行う。これらをもとに、多光子解離スペクトルを一光子吸収スペクトルに焼き直して定量的なスペクトルを得る手段を検討する。並行して量子化学計算による理論解析と実験結果との比較作業を進め、s電子の非局在化よる電子の集団励起の発現機構を実験・理論の両面から議論する。 一方、遷移金属添加銀クラスターにおけるs-d電子相互作用については、まず負イオンと酸素分子との反応の網羅的な測定を完了し、d電子の局在性(もしくは非局在性)を決める要因について、系統的な分析を行う。さらに、一酸化窒素、一酸化炭素分子との反応実験を進めるとともに、発光分析など、d電子の局在/非局在性に及ぼす電子数の効果の解明に向けた新たな実験を展開してゆく。
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