研究課題/領域番号 |
18H03902
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
小林 隆史 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10342784)
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研究分担者 |
細貝 拓也 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 主任研究員 (90613513)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 熱活性化遅延蛍光 / 高次三重項励起状態 / スピン反転 / 逆項間交差 / 有機EL |
研究実績の概要 |
次世代の有機EL用発光材料である熱活性化遅延蛍光(TADF)材料は、三重項励起状態(T)を一重項励起状態(S)へ逆項間交差させることで発光効率の向上を図っている。そのためには狭いSTギャップと高速スピン反転の二つが不可欠であるが、後者の設計指針はまだ確立されていない。本研究では、一部の分子で実現されている高速スピン反転のメカニズムを解明し、その制御法を確立することを目指している。 平成30年度と令和元年度で次の二つの課題に取り組んだ。 【課題1】高次三重項励起状態を含む励起状態の性質の同定法、およびエネルギーギャップと緩和速度の決定法の構築 【課題2】高効率TADF材料で発現する高速スピン反転メカニズムの解明 令和元年度は、前年度に導入したiCCDカメラを用いていくつかのTADF材料について網羅的に時間分解発光測定を行うことに注力した。どの分子も複雑なスペクトルシフトを示すが、これは複数の励起状態からの発光が順に現れるためであり、中には高次三重項励起状態からと思われる発光が含まれていることが明らかとなった。このスペクトル情報を利用して各種励起状態間のエネルギーギャップを推定すると、発光緩和曲線の解析から見積もられるギャップとおおよそ一致することも確認できた。また励起状態の帰属が可能となったことにより、発光減衰曲線から励起状態間の緩和速度も決定できるようになった。ただし、観測される発光スペクトルはいずれもブロードであり、励起状態の性質を同定するところまでは至っていない。調査した分子の中には、高次三重項励起状態を経由した高速なスピン反転が起こる分子とそうでない分子があり、それらの比較についても検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中心的な測定機器の一つが故障し、その修理に1カ月以上の時間を要したが、当初計画していた実験は全て行うことができたので「おおむね順調に進展している」と判断した。なお、年明けからコロナウイルスの影響で研究活動(主に成果発表)が一部制限されたため、予算の繰越を申請した。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度(3年目)は、前年度までに得られた研究成果をもとに、下記の二つの課題に取り組む計画である。 【課題3】 溶媒やホスト材料など外的要因が及ぼす影響の解明、および積極的な活用による逆項間交差速度の高速化の検討 【課題4】 ドナーユニットの配置や置換基効果など内的要因が及ぼす影響の解明、および積極的な活用による逆項間交差速度の高速化の検討 極性溶媒やホスト材料にドープした極性分子により、最低一重項励起状態と最低三重項励起状態のエネルギーギャップが狭くなることはこれまでの研究により明らかになっている。このメカニズムを明らかにしたうえで、積極的に利用した逆項間交差速度の高速化について検討する。これが【課題3】の具体的な内容である。【課題4】については、類似骨格を持つ他の分子についても検討を進め、分子構造との相関を明らかにしつつ、逆項間交差速度の高速化について検討する。いずれの課題においても、前年度までに購入したiCCDカメラやクライオスタット、あるいは得られた知見を活用して進める予定である。
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