研究課題/領域番号 |
18H03903
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
新倉 弘倫 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (10500598)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アト秒物理 / 量子制御 / 高強度レーザー / 高次高調波 / 極端紫外光 / 電子波動関数 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、高強度の赤外レーザーと波長可変のアト秒極端紫外高次高調波を用いて、光イオン化・光励起過程に関する新たな量子選択性を見いだし、制御することにある。以下の研究を行った。 (1)レーザーの高強度化:既存のフェムト秒レーザー(5.5mJ~4mJ/pulse)のポンプレーザーを高強度のものに換装し、内部の光学系の調整を行うことで、出力の高強度化(10mJ/pulse ~7.3mJ/pulse)を達成した。 (2)m=|1|の状態の選択的励起:本研究では、高強度レーザー電場によるシュタルクシフトと、極端紫外領域のアト秒高次高調波による特定のエネルギー準位への励起過程とを組み合わせることで、磁気量子数が異なる状態を分離するという原理を提案している。高次高調波の波長可変化を自動で行う光学システムを構成し、高次高調波の波長と高強度レーザー電場の強度の二つの関数として、様々な希ガス原子から放出された光電子の運動量分布をより詳細に測定した。その結果、磁気量子数m=0とm=|1|とがどのようなレーザーの条件(強度や高次高調波の波長)で分離できるかが明らかになった。測定された運動量分布の変化と特徴は、理論計算によるものとよく一致することがわかった。 (3)高効率でのオプティカルパラメトリック増幅(OPA)機構の解明に向けた測定:本研究課題では、高強度のOPA光学系を構築し、それを用いてアト秒高次高調波の波長可変領域を広げることを計画している。これまで得ている高い変換効率の機構解明を目指して、OPAへの入力・出力パルスの空間モードの測定、および出力パルス幅の測定を行い、高次高調波発生が可能であることを示した。 カナダ国立研究機構・ドイツマックスボルン研究所の研究者との共同研究である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)順調に進展した点:・高強度レーザーのポンプレーザーの換装をおおむね成功裏に終了することができ、おおむね予想される出力(使用するグレーティングにより10mJ/pulseまたは7.3mJ/pulse, 約790nm)を得た。今まで使用していた二つのポンプレーザーのうちの一つを第一段増幅器に移動し、新たなポンプレーザーを第二段増幅器に使用するなど、複雑な過程だったが、予想出力を得たので順調であると考えられる。・高強度レーザーパルスおよびアト秒高次高調波を用いた磁気量子数m=1の状態のイメージングとその量子選択機構が明らかになり、論文を投稿するめどがたった。またこのことにより、今後の研究の展開が広がった。・高強度でのオプティカルパラメトリック増幅によって発生されたパルスの性質が明らかになり、今後の高強度化に向けた測定系の構築などに関する知見を得ることが出来た。 カナダ国立研究機構・マックスボルン研究所との共同研究も、理論と実験の比較や論文の共同執筆など順調に行われている。 (2)困難であった点: 一方、高強度化したフェムト秒レーザーパルスを用いて新たにOPA増幅を試みたが、空間モードに若干の偏りが見られ、また空間チャープが存在するなどで、期待する変換効率を得ることが困難だった。その後、高強度レーザーの光学系の再アライメントや増幅条件を変えて理想とする空間モード(ガウシアンモード)を得る工夫を行っている。(なお本報告書提出の時点で、だいぶ改善が見られた。)
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は昨年度の結果を踏まえ、以下のことを行う予定である。 (1)高強度オプティカルパラメトリック(OPA)装置の作成とそれを用いた波長可変高次高調波の発生:2018年度に増幅したフェムト秒パルス(基本波)の一部を用いてOPAによりシグナル光(波長1200nm~1500nm)とアイドラー光(1700nm~2300nm)を発生させ、残りのパルスを用いて、シグナル光またはアイドラー光をさらに増幅する光学系を作成する。高効率・高強度の波長変換のためには、入力パルスの空間モードが重要となる。そこで基本波の空間モードを調整しつつ最適化することで、高強度のパルスの発生を目指す。発生したOPAパルスを用いてアト秒高次高調波を発生させ、波長のスキャンとそれによる光電子運動量分布の測定等を行う。 (2)極端紫外領域による波長選択光学系の作成:波長可変の高次高調波は複数の高次高調波成分を含むため、特定の波長領域を選択すると、より測定が容易になると考えられる。そこで波長選択用の光学系を作成し、波長可変かつ選択された高次高調波パルスの作成とそれを用いた分光・量子制御のための光学系を作成する。これは真空中での複雑な光学系となるため、本年度だけではなく来年度にもまたがっておこなう予定である。 (3)m=|1|における位相変化と運動量の関係のアト秒イメージング;磁気量子数mが+1と-1の場合は、電子波動関数の位相はz軸まわりに異なる値(複素数)を持ち、時間発展する。そこでm=|1|のみの状態を選択し、m=0の場合と同様に、異なる波長のアト秒高次高調波により、位相成分を測定する。このことにより、それぞれ異なる運動量を持つ電子の位相マッピングを行う。
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