研究課題/領域番号 |
18H03904
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
解良 聡 分子科学研究所, 光分子科学研究領域, 教授 (10334202)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 表面界面物性 / 有機半導体 / 光電子分光 / 電子状態 / 電荷輸送 / 準位接合 |
研究実績の概要 |
高感度紫外光電子分光およびシンクロトロン放射光施設を利用した各種光電子分光実験等により有機半導体界面の電子状態研究を進め、7件の論文成果を発表した(他投稿中あり)。複雑な大型分子群の結晶膜の作製は困難を極めるが、有機単結晶基板をテンプレートとすることで、別種の積層分子の高配向結晶膜の作製に成功した。高精度角度分解光電子分光実験によってエネルギー分散関係の検出に成功した。また有機デバイスへのドーピング効果について検討し、これまでの大規模データを計算シミュレーションを元にして包括議論し、ドーピングの最適化因子を見出すことに成功した。一方で、当該年度でスタッフと学生が総離脱し、次年度は新規メンバー2名で再スタートすることとなった。早急に研究体制の再構築を行い、研究計画進捗に影響が無いように努める。本年度成果の一例を以下に記す。 <有機半導体単結晶pn接合試料におけるエネルギー分散関係の初観測> 有機半導体単結晶の電子構造測定は、その低い電気伝導度から実測例は極めて限定される。ペンタセン単結晶を下地基板として使う事で、フッ化ペンタセン分子の単結晶膜の作製に成功し、そのエネルギー分散関係と有効質量の異方性評価に成功した[J. Phys. Chem. Lett. 2019]。 <有機半導体へのドーピング最適化因子の実験・理論検証> 熱活性型輸送で支配されるデバイス特性を制御するために必要不可欠な最適化因子を見出した。ドナー分子・アクセプター分子間の電荷移動により構築される電荷移動錯体の濃度に依存したメカニズムを提唱した [Nature Materials 2019]。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分子集合体の物性・機能の本質を理解するために(1)空間秩序と電子状態の相関評価:分子軌道断層撮影による弱相互作用と電子局在性測定、(2)電子状態の時間的・空間的揺らぎ:電子局在性の電子-フォノン相互作用による動的異方性、の実験的検証を進めている。(1)についてはフッ化ペンタセンの二分子層膜について、イタリア放射光施設にて波数分解光電子顕微鏡装置を用いた高波数空間のイメージング測定に一部成功し、結合性・反結合性軌道の特徴をもった電子準位の検出に成功している(論文執筆中)。より詳細な議論のためには、高エネルギー分解能データが不可欠である。(2)についてはフッ化ペンタセンの結晶膜の成膜法を見出し、初めて本分子のエネルギー分散関係の検出に成功した。長方格子であるためにブリルアンゾーンで折り返しが明瞭で単純なバンド構造を示す。バンドの微細構造を議論するためには理想的と言える。電子フォノン相互作用の検証が可能な極めて良質のターゲット試料を見出したと考えている。速やかに温度依存測定による詳細な実験へと移行する。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、他物質との相互作用を受けて、分子軌道のエネルギー分布や量子的局在性が孤立分子のそれからどのように変化するかを引き続き研究する。昨年度見出した重要な2試料について、温度依存性や波数空間分布測定など、より詳細な電子構造測定へと展開する。さらに試料探査は継続して行う。遷移金属カルコゲナイド系の層状化合物を下地基板とし、より大型のパイ共役をもつペリレン誘導体分子について、高配向分子膜の成膜と電子状態測定を狙う。構造評価は、準安定励起原子分光(MAES:分子配向)、光電子放射顕微鏡(r-PEEM:薄膜成長/共同研究@千葉大他)、走査プローブ顕微鏡(SPM:局所構造/共同研究@千葉大他)、高分解能低速電子線回折(SPALEED:周期構造)、X線定在波分光(XSW:吸着距離/放射光施設利用)と理論計算を多角的に駆使し評価する。電子状態測定の予備実験はラボ装置の光電子分光装置を活用し、分子研のUVSOR放射光施設を利用した高精度実験に加え、それ以外の最先端技法は海外の放射光施設を利用申請し実験を行う。当該年度でスタッフと学生が総離脱し、2019年度は新規メンバーとして博士研究員2名で再スタートすることとなった。早急に研究体制の再構築を行い、研究計画進捗に影響が無いように努める。
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