研究課題/領域番号 |
18H03908
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
斎藤 雅一 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (80291293)
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研究分担者 |
木口 学 東京工業大学, 理学院, 教授 (70313020)
畑中 美穂 奈良先端科学技術大学院大学, 研究推進機構, 特任准教授 (80616011)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | σおよびπ二重芳香族分子 / ヘキサセラニルベンゼン / テルル / ヨウ素 / ナフタレン / ジカチオン / テトラカチオン / ヘキサテラニルベンゼン |
研究実績の概要 |
ヘキサセラニルベンゼンを鍵中間体とした官能基導入法を利用し、ベンゼンの1,4位にテルル官能基およびヨウ素原子を導入した。セレン原子よりも大きい原子の影響でσ軌道の相互作用が増し、HOMOが上昇することを活かし、これらの化合物の酸化反応を検討したところ、テルルの系においては、対応するジカチオンが不安定で、予想外の転位反応を経た二種類の生成物を得た。量子化学計算を行い、その転位機構について考察した。この反応を追跡したところ、ジカチオンは不安定であるものの、工夫次第では単離可能であろうということまでは突き止めた。ヨウ素の系においては、予想外にカチオンラジカルが安定で、その合成・単離に成功した。セレン原子の換わりにケイ素カチオン部位を導入したところ、隣接する一つのセレン原子がケイ素カチオン部位に強く配位した構造をもつ化合物が得られた。ホウ素官能基の導入にも成功し、予想外にも隣接セレン原子との相互作用がないことを明らかにした。 σ軌道を整列させるプラントフォームをベンゼンからナフタレンに拡張し、ナフタレンの全ての炭素原子上にセレン官能基を導入した誘導体を合成した。その酸化反応を検討したところ、最終的な分子構造の決定には至ってはいないが、予想外にもセレン―セレン結合を有したジカチオンを得た。さらなる酸化反応を検討したところ、酸化剤の当量が少ないにもかかわらず、予想外にもテトラカチオンを合成・単離した。 ベンゼン環上に6個のテルル原子官能基を有するベンゼンの合成に初めて成功した。この分子は合成反応条件下で比較的不安定で、反応時間をのばすと、予想外に1,2,4,5-テトラ置換体に分解することも見いだした。ヘキサテラニルベンゼンの酸化も検討したが、期待していたジカチオンが予想外に不安定で、転位反応が進行するとの予備的な知見も得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の目標はベンゼン環の1,4位にテルル官能基およびヨウ素を有するベンゼンのジカチオンの合成・単離であったが、テルルの系では予想外の転位反応を見いだした。また、ヨウ素の系でも予想外にカチオンラジカルの生成を見いだし、その合成・単離に成功した。ジカチオンの単離には至っていないものの、その生成を示唆する結果は得ており、実験の工夫次第では十分に単離可能との感触を得た。ケイ素カチオン部位およびホウ素官能基の導入は目標通りに成功したが、ケイ素カチオン部位が隣接する二つのセレン原子と相互作用するわけではなく、一つのセレン原子と相互作用するとの結果は予想外であった。また、ホウ素原子と隣接セレン原子間に相互作用がなかったことも予想外であった。 σ電子の非局在化を目指してプラットホームをナフタレンに拡張させたところ、ジカチオンがセレン―セレン結合をもち、隣接するセレン原子とカチオン中心が相互作用した四中心六電子系を構築していることは予想外の結果であった。酸化剤の当量が少ないにもかかわらず、テトラカチオンが生成したことも予想外の結果であった。 極めて精緻な合成実験を重ねたものの、6個のテルル原子官能基を有するベンゼンの合成に成功したのは目標通りと言えるが、この化合物が反応条件下で分解して四置換体を与えることおよびジカチオンが不安定であることは全くの予想外の知見であった。 以上のように、当初の目標を達成しつつ、予想外の知見が得られたことから、当初の目標以上に研究が進展した、と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
1,4位にテルル官能基およびヨウ素を有するベンゼンのジカチオンが予想外に不安定であることに鑑み、精製操作等を十分に工夫し、その単離および構造決定を目指す。 ナフタレンの系では、導入する原子をセレンに留めることなく、硫黄やテルル原子を導入することを検討する。元素の大小に応じた中性分子の構造や電子状態の変化を考察し、その酸化反応を検討する。 このようにして構築したσ非局在系とπ非局在系が共平面で相互作用する分子系の構築を目指す。
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