研究実績の概要 |
「芳香族性」とは、ベンゼン環を有する化合物の特異な性質を説明する概念であるが、π軌道に収容された電子の非局在化により発現するので、π芳香族性とよばれるべきものである。一方、軌道には対称性に応じて様々な種類があるので、π軌道以外の軌道からなる芳香族性が存在すれば、これとπ芳香族系を組み合わせることにより、π軌道のみでは実現しない芳香族性および新たな非局在電子系の構築が可能になる。このような非局在系は、物性科学の新しい基礎学理を生むと期待される。そこで様々なタイプのσおよびπ軌道からなる二重芳香族性およびσ及びπ混合非局在電子系を創製し、その性質をπ軌道のみからなる非局在系と比較しながら明らかにする。 σおよびπ二重芳香族性の学理の確立を目指し、既に当研究室はベンゼンの1,4位にテルル官能基やヨウ素原子および2,3,5,6位にセレン官能基をベンゼンのジカチオンを合成・単離し、その二重芳香族性を解明している。今回、σ軌道を整列させるプラットホームとして用いているベンゼンからナフタレンに拡張し、ナフタレンの全ての炭素原子上に硫黄およびセレン官能基を導入した誘導体を合成し、その多電子酸化反応を検討したところ、得られた酸化体はカルコゲン原子に応じて構造が変化することを見いだした。 ビフェニルおよびテルフェニル骨格をプラットホームとし、その片方のベンゼン環周縁部にセレン原子官能基を有する化合物を合成した。その電子状態を調べたところ、セレン原子官能基が構築するσ非局在系と片方のベンゼン環のπ電子系とが相互作用していることが示唆された。そこで研究分担者と共に量子化学計算を行い、この分子がσおよびπ混合非局在系を構築していることを明らかにした。また、研究分担者との共同で単分子電気伝導度測定を行い、二重芳香族性やσおよびπ混合非局在に由来する電子物性を探索した。
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