研究課題/領域番号 |
18H03915
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
原田 明 九州大学, 総合理工学研究院, 教授 (90222231)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 2色2光子励起 / 光熱変換 / 超高感度検出 / 非蛍光性化学種 / 溶液物理化学 / 紫外レーザー分光 / 多色多光子吸収 / ヘテロダイン検出 |
研究実績の概要 |
本研究は、溶液系における溶質分子の光学的検出法に新基軸をもたらそうとするものである。重要性が高く微量な生体・環境関連の溶液中化学種の多くは、紫外域にのみ光吸収を持ち、かつ、非蛍光性(低蛍光量子収率)である。それらを無修飾のままで単一分子検出レベルで高感度検出できる汎用的な手法は未だ存在しない。そこで、非蛍光性化学種の無標識・超高感度検出法として申請者らが開発してきた深紫外光励起光熱変換ヘテロダイン計測法を発展させ、汎用性・高感度性・化学種選択性を併せ持つ非蛍光性化学種の無標識・超高感度検出技術開発に挑んでいる。技術的キーポイントは、多色多光子吸収を利用した深紫外吸収帯の光励起・検出の実現である。(i)多色多光子励起光熱変換現象の詳細検討、(ii)顕微ヘテロダイン検出装置としての開発、(iii)分離分析応用を進めるため、主に次の3項目を検討する。(Ⅰ) 2色2光子光熱変換現象の実証と基本特性把握。(Ⅱ) フロー系・2色2光子光熱変換顕微ヘテロダイン検出装置の開発。(Ⅲ)分離分析・検出装置としての開発、性能評価と応用。 初年度である本年度から次年度にかけて、全固体レーザーを励起光源としつつ多色多光子吸収を利用した深紫外吸収帯の光励起・検出の実現を図っている。新規実験装置として、機種選定の上で部分的に設計変更を施して導入した高出力紫外可視近赤外波長可変レーザーシステムは、紫外光から可視光に渡る全波長用域の光とは別に、Nd:YAGレーザーの第2または第3高調波(532nm、355nm)を同期出力できる。これを用いて2色2光子励起光熱変換検出系を試作し、本格的な検討の準備を進めた。並行して、2019~2020年度の検討課題の一部であったフロー系装置の開発を前倒しして進めるためシリンジポンプを導入して、検出部流路のマイクロチップシースフロー化を試験した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、前述の3つの柱を掲げて研究を遂行している。5年計画の初年度であった平成30年度(2018年度)は、(Ⅰ) 2色2光子光熱変換現象の実証と基本特性把握[当初計画2018・2019年度予定]を進めると共に、計画を前倒して、(Ⅱ) フロー系・2色2光子光熱変換顕微ヘテロダイン検出装置の開発 [当初計画2019・2020年度予定]の一部であるフロー系の検討も進めた。 (Ⅰ) に関しては、全固体レーザーを励起光源としつつ多色多光子吸収を利用しての”深紫外吸収帯”の光励起・検出の実現を検証中にある。機種選定の上で部分的に設計変更を施して導入した高出力紫外可視近赤外波長可変レーザーシステムは、紫外光から可視光に渡る全波長用域の光とは別に、Nd:YAGレーザーの第2または第3高調波(532nm、355nm)を同期出力できる。これを用いて2色2光子励起光熱変換検出系を試作済みである。次年度、改良を加えつつ感度特性を検討する準備が整っている。特に新規性の高い検討項目は、(1)信号検出自体、(2)溶液中ターゲット化学種の2色2光子遷移確率、(3)溶媒中の不純物であると推定される化学種と、ターゲット化学種とで選択性を向上する条件[波長、タイミング、偏光特性、出力比]である。 (Ⅱ)に関しては、先々、分離分析・検出装置とするために必須な検討であり、特に、バックグランド信号のレベルを下げつつターゲット化学種を漏らさず検出域に導くため、マイクロチップ流路とシースフローの実現を図り、条件設定に到った。これにより、高速液体クロマトグラフィーの検出器として用いる条件が整い、第(Ⅲ)の柱に円滑に繋がる目処が立っている。 これらとは別に、装置設計中の検討により、溶媒の光吸収バックグランドを抑制する手法を新規に着想しており、次年度以降に検討を予定している。
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今後の研究の推進方策 |
光熱変換検出により非蛍光生化学種の分子カウンティング実現のためには、信号の増強、バックグラウンドの低減とともに発熱由来の屈折率変化の高精度計測が不可欠である。原理検証、基本特性把握とともに分離分析応用を念頭に、装置としての操作性・長期安定性を確保しつつ、性能向上を図り、分子カウンティングレベルの感度の実現に挑戦する。 当初予定通り、本研究の中心課題となる、(Ⅰ) 2色2光子光熱変換現象の実証と基本特性把握を中心に据えて、(1)信号検出自体、(2)溶液中ターゲット化学種の2色2光子遷移確率、(3)溶媒中の不純物であると推定される化学種と、ターゲット化学種とで選択性を向上する条件[波長、タイミング、偏光特性、出力比]の項目について検討を進める。(2)は、高い安定性と疑似連続光特性(80MHz帯の高い繰り返し周波数)を持つ故に分離分析用検出器用の光源として優れ、2020年以降用いる予定のTi:サファイヤレーザー第3高調波発生システム(モードロックレーザーのオシレータのみ、既存)を光源とする可能性の検証に不可欠なデータとなる。 検出部流路のマイクロチップシースフロー化に目処が付いていることから、並行して、(Ⅲ)分離分析・検出装置としての開発、性能評価と応用 [当初計画2020・2022年度予定]へのアプローチを始める。本研究では生体関連アミノ酸(20種類)、5種類の核酸塩基、および多環芳香族塩素化物、ニトロ化物をターゲット化学種としている。多種類の化学種を対象とした検討を行うのに、この前倒し検討が有効である。ただし、次年度は、原理検証と基礎データ収集を優先し、開発に半年以上要すると推定される顕微ヘテロダイン検出装置では無く、光学系を簡素にできる顕微熱レンズ検出系を用いて検討を進める。 また、新たに着想した溶媒の光吸収バックグランドを抑制する手法を検討項目として加え、早々に実施する。
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