研究課題
本研究は、TRMC@Interfaces/TRMC@Transformation/TRMC-ESR複合計測の3つの完全実験的計測法の確立を目指して研究を進め、令和1年度は、研究目的1)共役高分子の界面構造と電子輸送特性の相関、2)共役高分子電子素子における支配因子の定量分析、について研究成果発表を行った。特に、研究目的4)伝導種・スピン状態と電子輸送特性の完全定量分析に対応する研究項目3-ESR-TRMC複合計測による伝導種と輸送能の相関解明を中心に研究を実施した。ESR-TRMC複合計測では、TRMC法と、キャリア数・キャリア種定量法としての電子スピン共鳴(ESR)分光および紫外可視吸収分光測定を三元融合する必要がある。ドープされた検体のマイクロ波空洞共振器中の最大磁場下において計測されるESR信号を用いて、注入スピン数の絶対定量を行い、同時に電界強度最大位置に検体を移動させてドープされたキャリアによる過渡伝導度信号の分析に成功した。伝導性高分子としてポリフルオレンを用い、伝導種のスピン状態と伝導度の相関について議論を行った。次いでこれらの計測法を抗がん剤として使われているEllipticineの電気伝導性の調査に展開を行った。Ellipticineは高い平面性と強い水素結合性を有しつつ高い結晶性を示し、配向方向の揃ったEllipticine薄膜と絶縁体界面における電導度計測を実施した。レーザーを用いてEllipticine薄膜中に電荷分離を引き起こすFP-TRMC法では,π共役の折り重なる方向への伝導度が水素結合方向より1.5倍程度大きいことが観測された。FI-TRMC測定法ではEllipticineの電荷キャリア移動度がπ共役方向:6.5 cm2V-1s-1,水素結合方向:4.2 cm2V-1s-1と測定され、FP-TRMCと良い相関を示した。
1: 当初の計画以上に進展している
令和1年度の研究計画は、前年に大阪北部地震の影響を取り戻したうえでさらに加速して推移し、研究目的4)伝導種・スピン状態と電子輸送特性の完全定量分析に対応する研究項目3-ESR-TRMC複合計測による伝導種と輸送能の相関解明にすでに進展しつつ、この計測法を用いたさまざまな共役分子・高分子における骨格・積層構造と電子輸送特性の相関研究に利用している。加えて、これらの研究成果はすでに多くの報文によって発表されつつあり、当初、研究目的4)の本格的な達成と利用は研究最終年度に実施する予定であったが、およそ半年以上の先行実施を達成できていると考える。
研究目的1)共役高分子の界面構造と電子輸送特性の相関、研究目的2)共役高分子電子素子における支配因子の定量分析、研究目的3)骨格構造の変調と電子輸送特性の相関、に対応する界面選択的なFI-TRMC法の研究グループ内のみならず、国内外への積極的な評価手法としての展開を行い、その信頼性と汎用性の徹底的な周知を行う予定。研究目的4)伝導種・スピン状態と電子輸送特性の完全定量分析、については共役分子材料・開殻分子材料への展開を進め、電荷キャリアの輸送と合わせて、スピン角運動量の物質内輸送過程の解明手法としてのさらなる展開を行い、有機分子性材料をもとにしたElectronics/Spintronics特性の評価手法としての唯一無二の方法として確立する。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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