本研究では性能要件として350nm-400nmに感度波長を有する、光反応量子収率Φphが70%以上を有する、着色体半減期τ1/2、が1週間以上、電気化学トリガーを用いて連鎖的な開環反応が誘起され、その消費エネルギーが下記の保持エンタルピーの1/20以下、分子内に保持されるエンタルピー>20kcal/molなどを想定して検討してきた。これらが同時に満たされると単色光エネルギー貯蔵変換効率η>30%が達成される。令和3年度さらに繰り越し後の令和4年度にはターアリーレン誘導体におけるヘテロ芳香族ユニットの電子供与性と芳香族性および立体障害を考慮し、閉環反応前後の吸熱放熱量を量子化学計算と実験から系統的に検証してきた。特に開環体から閉環体に異性化する過程においてはsp2配置の炭素原子がsp3に変換する際の立体障害の変化を利用することで大きな内部エネルギー変化が可能であることを明らかにした。量子化学計算の結果によって予測された開環体と閉環体の最安定構造の内部エネルギー差に対し、示差走査熱量(DSC)計測から得られる内部エンタルピー変化は10%程度の誤差範囲でほぼ一致した。DSC計測では分子間相互作用の変化が重畳することを考慮すると合理的な結果と評価された。さらに自発的発熱開環反応の活性化エネルギーを検討した結果、内部エンタルピー変化との間で線形関係が見いだされた。これは古典的にはLFER 線形的内部自由エネルギー変化関係則として理解される。しかし極めてユニークなことにその線形係数は約2となり、通常の熱反応におけるLFER係数が0~1であることに対してきわめてユニークな結果となった。
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