研究課題/領域番号 |
18H03922
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
中西 尚志 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, グループリーダー (40391221)
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研究分担者 |
山室 修 東京大学, 物性研究所, 教授 (20200777)
吉田 学 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 研究チーム長 (60358330)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 機能性液体 / 液体エレクトレット / π共役分子 / センサ / 粘弾性 / ストレッチャブル素子 / 中性子弾性散乱 / アクチュエーター |
研究実績の概要 |
2019年度は、これまでに分子設計、合成を進めてきたアルキル化液体ポルフィリンを基材に、液体エレクトレット機能の発現、振動発電素子、アコースティックアクチュエーター素子、ならびにストレッチャブル振動発電素子の開発に至ったのが一番の成果である。アルキル化ポリフィリン分子は、ポルフィリン部位が複数の分岐アルキル鎖で保護・隔離された構造となっており、コロナ帯電処理した際にポルフィリン部位を中心に導入された電荷(+またはー)が、長期間(数ヶ月以上)安定に保持できることが分かった。このエレクトレット機能に加え、材料が液体といった流動性、自由変形性などの特徴より、ストレッチャブル振動発電への優位性を見出すことができた。この成果は、Nature Communicationsに掲載され、世界中で注目を浴びている。 この他、ピレンを骨格とする発光液体の安定性の検討や共役系を共役ポリマーへ拡張したフルイド材料への研究の展開も図った(Angew. Chem.)。特に、共役ポリマーフルイドでは、導入するアルキル側鎖とπ共役ユニットの分子量比に応じて、固体、エラストマー、液体の素材を意図的に造り分ける事に成功した。また、ポリマー間の非相溶性を利用して、メカノクロミック発光特性の制御を可能とできる結果を得た。この結果は、様々なセンサ素子への展開を期待させるものである。 また、本科研費事業の成果を含む複数の総説(Accounts Chemical ResearchやAdvanced Optical Materials)、Wiley社からの本(Functional Organic Liquids)の発刊も行い、研究のプレゼンスを上げる努力も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
液体エレクトレットの可能性を飛躍的に向上させる結果を見出すことができた。具体的には、液体の特徴を活かし、メッシュ状の素材に液体エレクトレット材料を含浸させ、電極で挟み込むことで素子作成できるといった優れた加工性、できたデバイスの安定性などで、他のエレクトレットデバイスとの差別化、優位性を見出した。エレクトレットデバイスとしての安定性試験では、少なくとも1ヶ月半以上の安定性を示しており、実際には作成から数ヶ月後にもデバイスの作動が確認できている。これら、エレクトレットデバイスの性能評価は、主に分担研究者の吉田(産総研)によって実施された。 また、様々なπ共役分子を基材に液体エレクトレット素材の開発も進んでおり、今後、電荷保持力、帯電力の高い液体エレクトレットの開発にも期待が持てる。さらに、新たに取り組んだπ共役ポリマーフルイドを基材とするフレキシブルエレクトレットの開発にも今後取り組む予定である。 一方、液体素材としての高分子物理的興味からの理解も深まってきた。分担研究者の山室らは、中性子弾性散乱法を用いて、アルキル鎖部位のダイナミクスとアルキル化π分子全体の並進運動などに起因するダイナミクスの違いを明確にしており、超高エントロピー性を示すアルキル化π液体分子群のダイナミクス特性を明らかにしつつある。
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今後の研究の推進方策 |
今後早急に取り組むべき課題は、液体エレクトレット性能の向上である。主に2つの取り組みが必要であり、一つ目は素材開発、二つ目はデバイス構造の改良である。エレクトレット性能評価の基準は、帯電力の向上と帯電安定性である。これらを達成するために、例えばコアのπ共役骨格の改変、πコアをナノ組織クラスター化させて帯電力を上げるなどに今後は取り組んで行く。また、2019年度に開発できたπ共役ポリマーを基材とした高性能エレクトレット開発のための課題探索も現時点では必要と思われる。また、何れの系においても、絶縁性の分岐アルキル鎖の電荷保持安定性に与える効果を理解することは重要であり、特に定量的な指標でこの点を議論するための分子設計、解析手法の確立も必要である。デバイス構造の改良は、伸縮機能、ウェアラブル化、受電効率向上に適した電極構造などを、試行して行く。 また、高分子物理的側面からの液体材料の理解においては、熱的挙動、ガラス転移のダイナミクス、ナノクラスターの有無を検証する構造解析の総合的なアプローチが重要となる。粘弾性レオロジー測定と何らかのスペクトル解析の同時測定などの、複数情報を同時に得ることのできる解析はアモルファス性の材料を理解する上では極めて有効と考えられるため、ここでの液体材料系にも応用していく予定である。
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