研究課題/領域番号 |
18H03923
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
大谷 文章 北海道大学, 触媒科学研究所, 教授 (80176924)
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研究分担者 |
高島 舞 北海道大学, 触媒科学研究所, 助教 (10772345)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 逆二重励起光音響分光法 / 電子トラップ / エネルギー密度分布 / 測定エネルギー範囲拡大 / 高感度化 / 高忠実化 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,これまでになかった概念である金属酸化物粉末の「同定」と精密評価のために,粉末試料の(i)バルクの構造,(ii)バルク(表面)のサイズ,および,(iii)表面の構造を反映するパラメータをすべてふくむ「電子トラップ密度のエネルギー分布/伝導帯下端位置(ERDT/CBB)パターン」を,新規に開発した逆二重励起光音響分光法によって高精度,迅速に測定し,3つのパラメータを相互に比較して試料間の一致度を解析する手法を開発する.ERDT/CBBパターンは,それだけで金属酸化物粉末の同定を可能とする「指紋」となるだけでなく,金属酸化物粉末の機能性の高低と連動する「機能性の指紋」にもなりうる.さらに,電子トラップの起源,構造および各種の化学反応における役割の解明をめざす. 2018年度には,逆二重励起光音響分光法測定法の改良をおもに推進した.(1)測定エネルギー範囲の拡大:従来までは約3.5 eVが上限であった電子トラップのエネルギー範囲(価電子帯上端エネルギー基準)を約6 eVまで拡大することに成功し,酸化ランタンのようなワイドバンドギャップ半導体にも適用できることをあきらかにした.(2)測定の高感度化:従来までは測定が不可能であった薄膜試料についても測定が可能になることをめざして,キセノンランプから水銀キセノンランプへの変更による光源強度の増大とマイクロフォンをエレクトレットコンデンサ型からMEMS型への変更によって,1マイクロメートル程度の薄膜試料でも測定可能になった.(3)逆二重励起光音響分光法の測定原理に対する高忠実化:原理的には本手法は測定にもちいる光源の波長分布やそれぞれの波長における強度に依存しないことから,セルの感度だけを別途調整することによって,同一サンプルであれば実験装置によらず一定になるはずである.これをほぼ達成することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本測定については,(1)測定エネルギー範囲の拡大:従来までは約3.5 eVが上限であった電子トラップのエネルギー範囲(価電子帯上端エネルギー基準)を約6 eVまで拡大することに成功し,酸化ランタンのようなワイドバンドギャップ半導体にも適用できることをあきらかにした.(2)測定の高感度化:従来までは測定が不可能であった薄膜試料についても測定が可能になることをめざして,キセノンランプから水銀キセノンランプへの変更による光源強度の増大とマイクロフォンをエレクトレットコンデンサ型からMEMS型への変更によって,1マイクロメートル程度の薄膜試料でも測定可能になった.(3)逆二重励起光音響分光法の測定原理に対する高忠実化:原理的には本手法は測定にもちいる光源の波長分布やそれぞれの波長における強度に依存しないことから,セルの感度だけを別途調整することによって,同一サンプルであれば実験装置によらず一定になるはずである.これをほぼ達成することができた.これは,測定法の根幹となる事項であり,これがほぼ達成できたことによって,つぎの段階である測定結果の解析にすすむことが可能となる.
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今後の研究の推進方策 |
《標準試料の調製》 RDB-PAS法で得られる信号強度は相対値であり,セルに装着したマイクロフォンの感度に依存するため,セル定数を決定するための標準試料が必要である.予備検討の結果,ある粉末試料についておなじ容器のサンプルでも採取する位置がちがえば異なるERDT/CBBパターンがえられることが多いため(この手法の感度が高い証拠でもある),標準試料として,比較的多量の酸化チタン粉末を湿式あるいは乾式にて混合したものを調製する.これを用いることによって,異なるセルによる測定結果を相互比較することが可能となる. 《金属酸化物ごとの検出波長の最適化と換算係数の決定》 上述のようにRDB-PASで得られる信号強度は相対値であり,現在は酸化チタンについて光化学法(滴定)によってもとめたものから換算係数を算出して使用している.また,光触媒信号の検出波長は,酸化チタンが吸収せず,蓄積した電子が吸収する625 nmに固定しているが,試料として酸化チタン以外の金属酸化物あるいは窒化物,硫化物をもちいる場合には,検出波長の最適化と換算係数の決定が必要である.前者は,既存装置の改造により,後者は上述の光化学法の利用あるいはより簡便な手法を開発する.なお,換算係数のためにはエネルギー分解が不要なので手法の開発は比較的で容易であると予想している. これらにくわえて,さらに「金属酸化物光触媒の同定と精密評価」「光触媒以外の用途での同定の有効性の評価」,「電子トラップの起源,構造と役割の解明」をおこなっていく.
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