研究課題/領域番号 |
18H03925
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
大友 明 東京工業大学, 物質理工学院, 教授 (10344722)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 薄膜電子材料 / エピタキシー / 電気化学 / 超伝導材料・素子 / トポケミカル反応 |
研究実績の概要 |
本研究では,薄膜化した前周期遷移金属酸化物に対して電気化学的にキャリアを均一にドープすることによって新しい超伝導体を創製することを目的とする。また,元素横断的に電子相転移を調べ,特異な物性発現の起源を明らかにすることを狙いとする。初年度(平成30年度)は,これまで多結晶しか合成されていないLiV2O4やLiNbO2の単結晶薄膜を作製し,電気化学的にLiイオンを挿入・脱離することでキャリアドープ量を変え,金属絶縁体転移や超伝導を観測することに成功した。一方で,LiCr2O4については単相の薄膜を合成するには至らなかった。LiサイトをMgやZnで置換したMgCr2O4やZnCr2O4の薄膜が容易に得られたことから,安定な3価のCrとは対照的に,3価と4価の混合原子価状態をとるCrの化合物が不安定であることを裏付けた結果といえる。2年目である今年度(令和元年度)は,スピネル型のLiV2O4と層状岩塩型のLiVO2,ならびにα相LixMoO3とβ相LixMoO3を作り分けることに成功した。さらにLixMoO3に対してLiイオンを挿入・脱離した結果,最安定なα相に比べて準安定なβ相の方がキャリアドープ量を自在に制御しうることをつきとめた。これらの一連の実験は,準安定相が得られる合成範囲や電気化学的なキャリアのドープ範囲を見極めることにつながった。また,Liイオンに代えて水素イオンを挿入する電気化学的手法や,Liイオンの挿入・脱離中の構造相転移をX線回折でその場観察する手法について検討した。さらには,LiNbO2についてLiを欠損させると低温で超伝導体になりp型透明導電性が増すという新奇な機能性を明らかにした。加えて,Li1-xNbO2における超伝導の圧力依存性や低温における光学特性を調べる実験を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
単結晶薄膜を用いた超伝導転移や金属絶縁体転移を外場によって制御する研究は,基礎・応用の両面から近年ますます注目を集めている。このことを踏まえ,今年度は当初の計画にない水素イオンの電気化学的挿入・脱離の手法やイオン挿入・脱離中の構造相転移をX線回折でその場観察する手法についても検討した。最終年度である来年度に向けた展望が得られており,当初の研究計画も順調に進んでいることから,全体としておおむね順調に進展していると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
層状酸化物LiNbO2において,Liを欠損させると低温で超伝導体になりp型透明導電性が増すという成果が得られている。超伝導は,LiNbO2の層状構造に由来して強い二次元性を示し,常伝導状態においても極めて強い電子相関を示すことが明らかになっている。最終年度にあたる来年度は,このLiNbO2の物性を詳細に検討することからはじめる。また,LiV2O4やLiMoO3の基礎物性評価に注力し,エピタキシャル安定化によって初めて得られた前周期遷移金属酸化物の物性を元素横断的に調べる。これらの実験・解析を効率よく進めるために,現有のパルスレーザ堆積法に予備排気室を設置する。これにより,薄膜合成のスループットが上がるだけでなく,合成条件の精密制御が可能となる。さらに放射光を用いた光電子分光,X線吸収分光,X線回折評価を実施する。以上の実験は,研究代表者と研究協力者3名(大学院生)とともに実施する。来年度の後半(2020年9月~)では,これまでに明らかにしてきた電子相転移を物質横断的に整理し,本研究の電気化学的な手法の適用範囲と今後研究の対象にすべき物質群と期待される機能性を考察する。
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