研究課題/領域番号 |
18H03936
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
片山 佳樹 九州大学, 工学研究院, 教授 (70284528)
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研究分担者 |
馬場 英司 九州大学, 医学研究院, 教授 (00315475)
浅井 大輔 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 講師 (10423485)
森 健 九州大学, 工学研究院, 准教授 (70335785)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 細胞膜抗原 / フローサイトメトリー / 蛍光分子プローブ / コンパニオン診断 / 酵素基質 |
研究実績の概要 |
昨年度、すでに開発している細胞爆抗原増幅システムにおいて実効性を詳細に評価した。その結果、時間経過に伴い、染色された細胞から色素が脱着して、他の細胞に色移りする現象がみられることが分かった。そこで、その解決法を種々検討した。まず、細胞内でアニオン性に転換することで細胞膜の再透過を防ぐことを御試みた。すなわち、フルオレセインの2つの水酸基をアセチル化したタイプを合成して評価した。しかしながら、膜の再透過は防げるものの、膜に存在するアニオントランスポーターからくみ出されることが発覚した。これに関しては、昨年度見出したアニオントランスポーター阻害剤を併用することで改善が見られた。 一方、疎水性を向上させて膜に強く結合させることで再脱着を抑制する分子も設計・合成した。このタイプの分子では、再脱着は大きく抑制できるが、酵素との反応前の非特異吸着が増加することでバックグラウンドが上昇するという問題が生じた。 そこで、昨年度新たに検討を開始した反応性プローブの開発をさらに進めることとした。すなわち、分子内にフルオロメチル基を導入し、基質が酵素反応で加水分解された際にこれが不安定化してフッ素が脱離し、高反応性の キノンメチドを生じて、細胞膜及び細胞内のタンパク質に共有結合する新しい分子の設計を行い、クマリン型の色素基質を実現した。この基質では、抗体に標識した酵素による反応で細胞を高感度に染色可能であり、再脱着や色移りは完全に抑制できることが分かった。 この色素プローブを用いて、通常のフローサイトメトリーでは検出不可能なPD-L1の検出を行ったところ、明確に検出可能であることが分かり、実用性のあるプローブであることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の計画では、酵素反応前後で親水性から疎水性に転換される蛍光分子プローブの基本思想で分子を設計・合成して目的を達成することを考えていた。しかし、前年度の最終段階の検討で、細胞を染色後、色素が再脱着される可能性が浮上し、本年度の前半においてこれを詳細に検討した結果、当初の設計思想では、本質的にこの再脱着は抑制できないことが判明した。そこで、色素が細胞から再脱着するメカニズムを検討することで、その性質を検討して、これを完全に解決する新しい概念として、昨年度見出した反応性プローブの方法論をさらに進め、酵素反応によりタンパク質に供給結合できる新しい概念を創出し、それを実現できる分子プローブの開発に成功した。 さらに、この概念に基づくプローブは、これまで検出不可能であった低発現量の膜抗原を極めて良好に検出可能であり、しかも、これを発現していない細胞と混合した場合でも色移りなく、発現している細胞のみを明確に染め分けることが可能であった。この成果は、実用性が高く、しかも高性能であることから、既に試薬メーカーとの商品化が進むこととなった。また、本概念には一般性があり、今後、他の波長の分子プローブに応用可能であることから、新しい分野を拓くことが可能であると期待できる。 また、そのための新しい加水分解酵素の探索も行い、哺乳類細胞には存在しない、利用可能性のある酵素のピックアップにも成功し、そのうちの1種類を大腸菌から発現し、評価用の基質の合成にも成功して、性能評価にも成功した。この成果は、上述の新しい概念に基づく基質プローブを多波長に展開していくうえで重要な成果である。 以上、本研究を実用化していくうえで、大きな進展がみられ、全く新しい概念の創出にも成功しており、計画以上に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度に確立した反応性分子プローブの概念を実用化を念頭に展開するために、今後は、プローブの多色化と応用例の拡充、およびプローブ多色化に必須の新たな加水分解酵素の探索を実施することとする。 分子プローブの多色化のためには、基質において、酵素による加水分解を受けて切断されたときにはじめてキノンメチドが生成するように分子内にフルオロメチル基を導入する必要がある。そこで、他の波長を有する蛍光色素に上記条件を満たすようにフルオロメチル基を導入したプローブを設計・合成する。 ただし、この概念では、さらに酵素反応を受ける前には細胞膜を透過しない高い水溶性を有し、酵素による加水分解後には、キノンメチドを生成すると同時に細胞膜透過性も獲得しなければならない。これを同時に満足させるためには、切断除去される部分が高い水溶性を有していなければならず、これを満足する基質構造を要求しうる新たな加水分解酵素を探索する。酵素は、ヒトをはじめとする哺乳類細胞で内在活性を有していない必要があり、植物及び細菌類の酵素を候補とする。候補が見つかり次第、その酵素の発現と基質の合成を行い、基本性能を評価して、実用性のある酵素に関しては本手法への適用を検討する。 さらに、すでに得られている基質プローブを用いる検出系を用いて、実際の臨床サンプルを含めた種々の細胞系において、従来法では検出困難な標的膜プローブを設定してその検出を検討し、本システムの有効性を実証していく。
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