研究課題/領域番号 |
18H03943
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
小鹿 一 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (50152492)
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研究分担者 |
矢島 新 東京農業大学, 生命科学部, 教授 (30328546)
竹本 大吾 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (30456587)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 疫病菌 / 交配ホルモン / 有性生殖 |
研究実績の概要 |
農作物に甚大な被害を与える病原糸状菌「疫病菌」は変異が早く、薬剤耐性化が問題となっている。その主要因とされる有性生殖の分子機構の解明は、疫病菌の制御に向けた重要課題である。疫病菌の有性生殖は超微量で働く二種の交配ホルモン(α1、α2)により制御されており、研究代表者らは以前にそれらの化学構造を解明している。本課題では、交配ホルモン生合成酵素と受容体の特定、さらに性分化に至る細胞内シグナル伝達系の解明を通して疫病菌有性生殖の分子基盤を確立するとともに、この知見に立脚した疫病菌制御の方法を探ることを目的とする。 これまでに、生化学的手法により生合成酵素タンパク、受容体タンパクの同定を目指したが、極めて困難であることが判明している。そこで、本研究課題ではゲノム解析を応用してこの課題の解決を目指している。交配ホルモンの生産および受容は交配型特異的な現象なので、本課題ではA1, A2交配型のトランスクリプトーム解析を足掛かりに研究を進めた。まず、生合成酵素遺伝子については、交配ホルモンがphytolの水酸化で生合成されることに着目して、酸化酵素遺伝子に絞り探索し、有力な候補を見出した。この遺伝子を組み込んだ真菌にphytolを投与することで、この酵素がα2生合成中間体を合成する酵素であることを見出した。一方、受容体については、まず核内受容体と仮定して交配型特異的に発現する遺伝子から探索を行い、10前後の候補を見出した。受容体については候補遺伝子の絞り込み方法が鍵となるので、複数の方法を考案し進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交配ホルモン生合成酵素および受容体の同定を目指して、トランスクリプトーム解析を進めた。 生合成酵素遺伝子については、ホルモンがphytolの水酸化物であることに着目し、疫病菌Phytophthora nicotianaeのA1, A2交配型からRNAを抽出しRNA-Seqを行い、交配型間で発現量に差を示す酸化酵素を探索した。その結果、常にA2株でA1株より高い発現を示すcytochrome P450遺伝子を1つ見出した。この遺伝子を、植物共生真菌の一種に組み込み、phytol存在下で培養したところ、生合成中間体として予想していた16-hydroxyphytol(16-HyPh)の生成を確認した。この酵素はさらに11-hydroxyphytol(11-HyPh)をα2に変換することも確認でき、α2はphytolから16-HyPh又は(および)11-HyPhを経て2段階で生合成されることが判明した。 一方、ホルモン受容体の探索も遺伝子発現解析を中心とする分子生物学的方法により推進した。A1, A2両交配型のRNA-Seqは完了しているので、いくつかの絞り込みの戦略を考案し進めた。当該年度は、交配ホルモンが脂溶性の高いリガンドであることに着目して、受容体を核内受容体スーパーファミリーの一つと仮定して塩基配列に基づいた絞り込みを行い、10前後の候補遺伝子を見出した。さらに、遺伝学理論に基づいた絞り込み、すなわちA1, A2の交雑個体(F1)からその子F2世代を作出し交配型ごとにグループ分けしゲノム解析を行うことで受容体遺伝子座を抽出する実験を計画し、これまでにF1世代の個体約30株の取得に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
交配ホルモン生合成酵素については、もう一つのα2生合成酵素遺伝子、およびα1生合成酵素遺伝子(これも1つとは限らない)の特定を進めている。RNA-Seq解析においてα2生産株(A2交配型)でより発現量の高い酸化酵素遺伝子約10個について、様々なA2交配型に対してリアルタイムPCRを順次行い、実際にA2で発現が高いかを調べることで、第2のα2生合成酵素遺伝子の候補を見出す。ついで、これまでの成果に基づき遺伝子の異種発現体を取得し、phytol→11-hydroxyphytolおよび16-hydroxyphytol→α2の反応を触媒するかどうか確認する。α1生合成酵素についても同様の戦略で進める。次年度にはこれらの予定を完了して、2つの交配ホルモン生合成機構の解明を達成したい。 一方、交配ホルモン受容体については、生合成酵素遺伝子のような明確な指標が無いため、RNA-Seq解析だけでは交配型特異的に発現する遺伝子がそれぞれ数百個見出されている。そこで、現在は3つの絞り込み法を考案している。すなわち、(1)ゲノム(塩基配列)情報に基づき、ホモロジーが高く交配型間で発現量に差のある遺伝子ペアやホルモンの高い脂溶性から核内受容体(DNA結合性)と仮定して絞り込む、(2)遺伝学理論に基づき、異なる交配型を親に持つF1交雑個体を自家受精させてF2世代を作出し、交配型ごとにグループ分けしゲノム解析を行うことで受容体遺伝子座を絞り込む、そして(3)ランダムミューテーション法に基づき、交配ホルモン感受性を損失した個体を取得しNGS解析で変異した配列を探索して絞り込む。これらを組み合わせることで受容体候補遺伝子を5個前後抽出することを目標とする。
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