研究課題/領域番号 |
18H03947
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
東谷 篤志 東北大学, 生命科学研究科, 教授 (40212162)
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研究分担者 |
工藤 洋 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (10291569)
寺西 美佳 東北大学, 生命科学研究科, 助教 (10333832)
下野 裕之 岩手大学, 農学部, 教授 (70451490)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | イネ低温障害 / エピジェネティック制御 / 温度ストレス / 生殖成長 / 穂ばらみ期耐冷性 / 水温 |
研究実績の概要 |
イネの低温障害(冷害)は、地球規模での気候変動の拡大により、その発生リスクが懸念されている。しかし、その本質的なメカニズム解明には至っていない。本研究では、イネの冷害にみられる大規模な遺伝子発現の制御や温度メモリー効果の実体が、エピジェネティックなゲノム変化に起因するという作業仮設を検証することを目的としている。 2020年度は、前年度に引き続き古川農業試験場の協力を得て、冷害を生じやすい低温感受性品種ササニシキ、耐冷性品種ひとめぼれを、通常の圃場と耐冷性検定圃場(19℃の深水冷水かけ流し圃場)でそれぞれ栽培し、発達初期の幼穂(約1g)ならびに穂ばらみ期の葯(約0.5g)をサンプリングした。それらのサンプルを用い、京都大学との共同研究により、ヒストンH3の修飾抗体であるH3K4me3、 H3K27me3抗体によるChIP解析、ならびにRNA seqによる網羅的な遺伝子発現解析を行った。また岩手大学の分担チームは、栄養成長期の高温処理が、その後の穂ばらみ期の冷害処理に及ぼす影響に関して、昨年度から継続して京都大学との共同研究により、RNA seqならびにChIP解析により調べた。いずれの実験からも、遺伝子発現変動とヒストンH3のエピジェネティックな修飾の変化を捉えることができた。また岩手大学の分担チームでは、施肥窒素が穂ばらみ期耐冷性に影響を及ぼすこと、その効果には品種間差異がある可能性を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度に古川農業試験場の協力を得て実施したササニシキ、ひとめぼれの通常栽培と低温処理の最終的な種子稔性は、通常栽培ではいずれの品種も9割を超えたが、19℃の冷水かけ流し圃場では、ササニシキの稔性が5割、ひとめぼれは8割となり、前年度と同様に温度に依存した品種間差が正しく観察された。このことから、耐冷性検定圃場にて得られた研究サンプルの有用性を示すことができた。さらに、この圃場において得られた冷害処理サンプルと通常圃場のサンプルを用い、RNA seqならびにChIP解析のデータを2年分蓄積することができた。また岩手大学では、イネの低温障害のメカニズム解明に至る新たな方向性として、施肥窒素が耐冷性のメモリー効果に影響を及ぼす可能性を見出すことができ、当初の目的としたイネ低温障害の本質的なメカニズムに迫る研究は展開できている。 しかしながら、covid-19対策に伴う研究活動の制限と、地域間の移動制限に伴い、回収したサンプルの解析に関して、数ヶ月程度の遅れが生じることとなった。そのため、研究の進捗状況としてはおおむね順調に進展していると判断しているが、2020年度の当初の計画から一部繰越金が生じることとなった。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度も継続して古川農業試験場の協力を得ながらサンプルを回収し、再現性を確認するとともに、既に得られた2年分のデータに関して、大規模データの比較分析と可視化を行う。また、岩手大学では、新たに見出した施肥の影響について、エピゲノムの観点からそのメカニズム解明を目指す。さらには、多数の品種を用いた解析を行うことで、エピジェネティックな効果をQTLなどで攻めることが可能になると考えられる。これらの方策を通じ、イネ低温障害の本質的なメカニズムに迫ることを目指す。
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