研究課題
1年目(2018年度)に確立したハイスループットな接ぎ木の評価系in vitro grafting(IVG)法を用い,2年目(2019年度)は2万を超えるITbMケミカルライブラリーを対象にケミカルスクリーニングを実施した.1次スクリーニングとして,組織の接着程度を手で確認する方法で簡便にスクリーニングを行った結果,多くの候補化合物を得た.2次スクリーニングとして,同様に手で接着を確認する方法を繰り返し,候補化合物を絞り込んだ.さらに3次スクリーニングとして,接着を定量評価するために,フォースゲージを用いた引っ張り試験を行い,組織の物理的な接着力を測定した.これらのスクリーニングの結果,50個を超える接ぎ木調節化合物を得ることに成功した.また,ケミカルライブラリーの化合物だけでなく,植物ホルモンの接ぎ木接着に対する効果をIVGにより評価し(2018年度からの継続実験),オーキシン類が接ぎ木を促進すること,サイトカイニン類,サリチル酸類,エチレン合成誘導剤が接ぎ木を阻害することを明らかにした.寄生植物の寄生に対する接ぎ木調節化合物の評価系の確立を行った.アメリカネナシカズラ-シロイヌナズナまたはダイズの寄生系を用い,寄生部位を含む外植片をMS寒天培地上に静置して,寄生部位へ効率よく化合物を浸透させつつ,吸器を成長させることが可能となった.培養開始ステージを検討し,寄生開始後54時間目の寄生部位を用いることにより吸器伸長に対する効果を,96時間目の寄生部位を用いることにより通導組織分化に対する効果を,それぞれ評価できる系を確立した.そして,これらの評価系を用い,寄生植物の寄生に対する接ぎ木調節化合物の評価が可能かどうかを見るために,前述の接ぎ木に効果を示した植物ホルモンについて,吸器伸長に対する影響評価を着手した.
3: やや遅れている
遅れていたケミカルスクリーニングが完了し,結果として目標数(促進と阻害各5~10種)を遙かに上回る,50個を超える接ぎ木調節化合物を得ることに成功した.さらに,植物ホルモンの接ぎ木接着に対する効果を評価し,オーキシン類が接ぎ木を促進すること,サイトカイニン類,サリチル酸類,エチレン合成誘導剤が接ぎ木を阻害することを明らかにし,これら植物ホルモンも接ぎ木調節化合物として使用できることが分かった.一方,上記の接ぎ木調節化合物が寄生植物の寄生イベントに及ぼす影響を評価する系として,アメリカネナシカズラ-シロイヌナズナまたはダイズの寄生系を用い,また培養開始ステージを変えることにより,寄生開始後54時間目の寄生部位を用いることで吸器伸長への効果を,96時間目の寄生部位を用いることで通導組織分化への効果を,それぞれ評価できる系を確立した.そして,この寄生植物の評価系を用いた,上記の接ぎ木調節化合物の評価を開始した.ケミカルスクリーニングの遅れ,そして新型コロナウイルスの影響による研究の遅れにより,計画していた「寄生イベントにおける接ぎ木調節化合物の評価」と「接ぎ木調節化合物を用いた接ぎ木メカニズムの解明に関する研究」が実施できていないため,研究期間を2021年度まで延長し,これらの研究を実施することとした.
ケミカルスクリーニングの遅れ,そして新型コロナウイルスの影響による研究の遅れにより,計画していた「寄生イベントにおける接ぎ木調節化合物の評価」と「接ぎ木調節化合物を用いた接ぎ木メカニズムの解明に関する研究」が実施できていないため,研究期間を2021年度まで延長し,これらの研究を実施する.具体的には次である.これまでに得られた接ぎ木調節化合物について,個体レベルの接ぎ木でもその効果を検証する.効果が認められた化合物については,さらにその作用機作を詳細に調べる.接ぎ木接合部の組織観察(染色した薄層切片の顕微鏡観察)を行い,接合部の細胞壁の構造変化やリグニン化の状態,穂木と台木の細胞間の原形質連絡の形成の有無,穂木と台木の間の維管束の再構成と接続などを観察し,組織の物理的な接着,原形質連絡の形成,維管束の再構成と接続の3つのイベントのうち,どのイベントがそれぞれの接ぎ木調節化合物のターゲットかを明らかにする.また,接ぎ木調節化合物をこれまでに確立した寄生植物の評価系を用いて評価することで,寄生に対しても促進効果あるいは阻害効果を示すか,そしてそれが吸器伸長イベントに対する効果か,あるいは通導組織分化に対する効果なのかを検証する.
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