研究課題
以下の2つの項目に関して研究を開始する。(1) 揮発性アルコールを受容し配糖体化することによる昆虫に対する防衛機能の検討 トマト株では大気中の青葉アルコール((Z)-3-hexenol)分子を体内に取り込み配糖体化し、防衛物質((Z)-3-Hexenylvicianoside: HexVic))として利用する。この植物の新たに発見された防衛機能は、単子葉植物から双子葉植物まで様々な分類群で認められる。本研究項目では、揮発性物質の配糖体化による防衛戦略の分子機序を詳細に検討する。チャ由来UDP-Glucosyl transferase、UDP-Xylosyltransferase、ならびにトマト由来UDP-Arabinosyl transferaseをそれぞれ大腸菌で発現させる。また、2遺伝子、最大3遺伝子を大腸菌で同時発現させ、それぞれの単糖配糖体だけでなく、二糖・三糖配糖体へ変換させる。調製した大腸菌にアグリコン部分のアルコールを供し、生物変換によりそれぞれの配糖体を調製し、既報の方法により精製する。(2) 揮発性物質暴露による植物個体の成長及び被食防衛に及ぼす影響の検討 揮発性物質の暴露がその後の植物の成長生理に与える影響と暴露によって誘導される植物の防衛の有効性と多機能性の研究を開始する。本年度は、裁断した雑草由来の揮発性物質暴露実験を行う。予備実験で効果が確認されているセイヨウカラシナ、ヨモギ、クズ、セイタカアワダチソウの葉を裁断したものを用いる。圃場に処理区と対照区を設置し、実施する。暴露期間はこれまでの実績に基づき、草刈りネットを5日ごと変え2週間とする。人工気象室内でも同様の手法を小スケールで行う。
2: おおむね順調に進展している
研究項目1 揮発性アルコールを受容し配糖体化することによる昆虫に対する防衛機能の検討:これまでに4種類の異なった構造の配糖体[ (Z)-3-Hexenylvicianoside: HexVic, (Z)-3-Hexenyl glycoside (HexGly), hexenyl primeveroside(HexPri,eugenyl primeveroside(EugePri)]を得ており、その解析も開始している。また、2糖配糖体化酵素の解析も実施中である。研究項目2 セイタカアワダチソウ、クズを裁断した際に発生する揮発性物質をイネ苗に暴露することで、その後、通常に生育したイネにおける繁殖・成長に関する複数の形質が変化する結果を得ており、次年度以降の研究の基盤を得た。ミント由来の揮発性物質がダイズ株の防衛形質を増強することを明らかにした。
研究項目1では、単離された配糖体化された揮発性物質の4成分の機能について、特に構造と活性との関係の解析を進める。さらに糖部分、アグリコン部分を置換した配糖体の作成を進める。2糖配糖体化酵素の生化学的解析も引き続き進める予定である。研究項目2においては、現在の研究を継続するとともに、マイクロアレーを用いたイネ遺伝子の網羅的解析を実施し、暴露による植物の生理状態の変化を解析する。植物間コミュニケーションで葉上の毛の密度が変化する新規の事実に関しては、論文作成とさらなる詳細な検討を進める。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 3件)
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