研究課題/領域番号 |
18H03952
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高林 純示 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (10197197)
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研究分担者 |
塩尻 かおり 龍谷大学, 農学部, 准教授 (10591208)
松井 健二 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (90199729)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 植物間コミュニケーション / 配糖体 / 揮発性物質 |
研究実績の概要 |
「植物間コミュニケーション現象を利用した栽培管理による減農薬・無農薬農業は可能なのか」という問いに答えるため、以下2つの研究項目を基軸としている。 研究項目1 揮発性アルコールを受容し配糖体化することによる昆虫に対する防衛機能の検討、研究項目2 揮発性物質暴露による植物個体の成長及び被食防衛に及ぼす影響の検討。 研究項目1においては、トマト株では大気中の青葉アルコール((Z)-3-hexenol)分子を体内に取り込み配糖体化し、防衛物質((Z)-3-Hexenylvicianoside:HexVic))として利用する現象に注目して研究を継続して実施した。また、ダイズのアロマ配糖体に関して、ターゲットを絞ったメタボローム解析によりダイズ葉には1-オクテン-3-イルプリメベロシドとリナリルジグリコシドが多く含まれることを明らかにした。このことからトマト葉だけでなく、ダイズも環境中の揮発性化合物を吸収し、配糖体に代謝して蓄積していることが示された。 研究項目2においては、本研究では、昨年までに裁断したヨモギの揮発性物質を受容したイネは、成長や防衛力が向上することを明らかになった。そこで、本年度は、イネの成長や防衛力の向上により適した揮発性物質を放出する植物を見つけるために、ヨモギにおいて検出量が高くみられたβ-pineneに注目し、それを放出することが知られている、バジル・パセリ・ミント・ローズマリーを用いてイネの成長(分げつ数と2か月後の乾燥重量)を人工気象室で調べた。発芽後1週間後にそれぞれの葉っぱを裁断したものを、イネの苗に10日間受容させ、その後、1苗ずつポットに植え替えをし、成長量を測定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ダイズ葉を破砕した時、リナリルジグリコシドが加水分解されずに残ることからこの配糖体は非揮発性物質として防衛機能を担っていると考えた。その仮説を証明するため、現在リナリルジグリコシドを精製している。これまでのところ順調に精製度を上げることができており、精製後はNMRによる構造確定と人工飼料を用いた摂食阻害アッセイを進める。 裁断した雑草由来の揮発性物質暴露による遺伝子発現の網羅的解析を6月初旬、7月中旬、8月初旬、8月下旬のサンプルで実施した結果、イネではサンプリング期間を通して匂い暴露処理による変動、DEG数も少なく、全体を俯瞰するとほとんど変化が見られず、暴露によるレスポンスは予想以上に早いことが明らかになった。どのように匂いを受容するのかに関して、複数の雑草由来の匂いに対するシロイヌナズナの応答を解析し、化合物特異的な応答が見られたので、その特異性に関してさらに解析を進める。植物間コミュニケーションの結果としてイネ科雑草の葉上の毛の密度が変化する新規の事実を発見した。
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今後の研究の推進方策 |
研究項目1では、トマト及びダイズにおいて配糖体化された揮発性物質の機能に関し、特に構造と活性との関係を引き続き解析を進めていく。また、新規に同定した2糖配糖体化酵素UGT91R1の詳細な生化学的解析も進め、論文として国際誌に投稿する。研究項目2においては、現在の研究を継続するとともに無施肥無農薬農業を実践している団体と協力して、雑草由来の匂いの効果についてさらに詳細に検討する予定である。イネにおける当初の成果は論文として国際誌に投稿する予定である。どのように植物は暴露された匂いを感じているのか、についても研究をすすめ、成果を国際誌に投稿する。葉上の毛の密度が変化する新規の事実に関しては、詳細な検討を進め国際誌に投稿する。作物の防衛形質に対するミント由来の揮発性物質の影響に関しても解析を進める。現在、新型コロナウイルスCOVID-19の感染問題があるため、今後、京都大学、山口大学、龍谷大学の3研究室は、3密を避けて研究を実施することとする。
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