研究課題/領域番号 |
18H03958
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
近藤 秀裕 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (20314635)
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研究分担者 |
廣野 育生 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (00270926)
羽生 義郎 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 主任研究員 (20357792)
筒井 繁行 北里大学, 海洋生命科学部, 准教授 (20406911)
矢澤 良輔 東京海洋大学, 学術研究院, 准教授 (70625863)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 魚介類免疫 / バイオテクノロジー |
研究実績の概要 |
本年度はチョウザメの血清を用い、チョウザメ抗体が種々のタンパク質および病原微生物に対して結合するかどうかを解析した。ベステルチョウザメ交代に対する抗血清を用い、ELISA法により種々の抗原に対する結合を解析したところ、チョウザメ抗体は解析した全ての抗原に結合することが示された。さらに、免疫アフィニティー法により本結合が特異的なものであることも示した。同様にドチザメ血清を分画し、分子サイズの異なる2種類の抗体画分を得た。チョウザメの場合と同様、抗原に対する結合能を解析したところ、分子サイズの小さい抗体が、種々の抗原に対して結合性を示した。さらに、ドチザメ抗体の抗原認識特性を測定するための蛍光測定ストップトフロー装置の開発を行うとともに、比較のため硬骨魚類の抗原特異的抗体についても解析した。 ドチザメ血清中に糖鎖に結合する抗体が存在するかどうか調べるため、血清をガラクトースおよびマンノースアフィニティークロマトグラフィーに供した。ガラクトースアフィニティークロマトグラフィーにより、本糖に特異的なIgM画分が得られた。得られたガラクトース特異的IgMをビオチン標識し、5種の魚病細菌と反応させた。その後FITC標識ストレプトアビジンを添加し、蛍光顕微鏡下で観察したところ、Aeromonas hydrophilaでのみ顕著な凝集と蛍光が認められた。 チョウザメについては、免疫グロブリン重鎖および軽鎖の遺伝子配列を解析し、重鎖については多様性が高いものの、軽鎖の多様性は低いことを明らかとした。一方、ドチザメについては、次世代シークエンサーを用いた網羅的遺伝子発現解析により抗体遺伝子の配列を確認しているところである。また、上記の網羅的遺伝子発現解析により、ドチザメは他の軟骨魚類の場合と同様、液性免疫の成立に関与するT細胞において重要なCD4遺伝子を発現していないことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、研究対象としているドチザメおよびチョウザメの抗体に対する抗血清を調製し、ELISA法により免疫していない各魚種個体の血中抗体が様々な抗原に対して特異的に結合することを示した。また、ドチザメ血清中にはガラクトースに特異的に結合する抗体が存在し、一部の病原細菌を凝集させることも示した。このような軟骨魚類および軟質亜綱魚類の抗体が持つ性質については古くから指摘されていたが、今回の研究により確認することができた。さらに、硬骨魚を対象に、特異抗体の成立に関わる分子の探索や効率的な特異抗体成立のための方策についても検討している。このように、タンパク質レベルでの解析は順調に進展しており、今後、個々の魚種由来の抗体についてさらに詳細に解析を進めていく予定である。 各魚種の抗体遺伝子の配列情報については現在解析を継続しているところではあるが、いずれも多様性解析が可能な状況にある。今後、ファージディスプレイ法などを駆使して、抗原特異的な魚類抗体遺伝子の単離を試みることが可能である。また、網羅的な遺伝子発現解析により特異抗体の産生に必要な分子の存在を解析することができた。とくに、ドチザメでは他の軟骨魚類で指摘されていたように特異的な抗体産生に関わるT細胞のマーカー分子であるCD4が欠損していることが示唆された。チョウザメについても比較解析を行い、軟骨魚類および軟質亜綱魚類の抗体産生に関わる機構を明らかにしていく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
ドチザメおよびチョウザメの抗体が種々の病原微生物やタンパク質に結合することが示された。今後はこれらの抗体が病原微生物の増殖を抑制し、感染症の発症を抑えることが可能かどうかを解析するため、in vitroの増殖阻害実験およびin vivoの感染防除試験を行う。 また、各魚種の抗体について、種々の抗原と特異的に結合するものの遺伝子配列を決定する目的で、ファージディスプレイ法を用いた特異的人工抗体遺伝子の探索を試みるとともに、得られたクローンの結合力を、組換タンパク質を用いて評価する。さらに、病原微生物に結合する人工抗体遺伝子については、得られたクローンを用いた感染防除法の開発についても検討する。 既に網羅的遺伝子発現解析により得られた配列情報について、2魚種間で比較するとともに、硬骨魚類の情報とも比較していくことで、これら魚種が免疫していないにもかかわらず、様々な病原微生物に対して結合する抗体を獲得する機構に係る遺伝子群を同定する。また、それら遺伝子群の機能について解析する。 上述の比較解析の成果を参考に、硬骨魚類において非免疫個体における自然抗体の多様性を高める手法について検討するとともに、免疫に伴う特異抗体価の上昇を促進する新たな免疫手法の検討も試みる。
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