研究課題/領域番号 |
18H03964
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
伊藤 大雄 弘前大学, 農学生命科学部, 教授 (00333716)
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研究分担者 |
叶 旭君 弘前大学, 農学生命科学部, 准教授 (10708168)
石神 靖弘 高崎健康福祉大学, 農学部, 准教授 (50361415)
青山 正和 弘前大学, 農学生命科学部, 教授 (60150950)
加藤 千尋 弘前大学, 農学生命科学部, 助教 (60728616)
荒川 修 弘前大学, 農学生命科学部, 教授 (70184265)
遠藤 明 弘前大学, 農学生命科学部, 准教授 (70450278)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 気候変動 / 環境制御 / リンゴ |
研究実績の概要 |
2020年3月16日から12月5日まで、3棟のビニールハウスを、屋外と同じ環境(A棟)、屋外の気温+3℃(B棟)、あるいは屋外の気温+3℃かつ屋外の二酸化炭素濃度+200ppm(C棟)に制御した。各棟内に標準潅水区と、標準灌水区の1.5倍量を灌水する多潅水区を設けた。着果数は樹当たり55果程度に制限した。 B・C棟はA棟に比べて開花が約10日前進する一方、落葉は約10日遅延した。供試した3品種のうち、‘つがる’の果実はB・C棟でA棟より8日早く収穫された。平均1果重はC棟>B棟>A棟、糖度はB・C棟>A棟であった。一方‘ふじ’ の果実はB・C棟で8日遅く収穫され、平均1果重はC棟>A棟>B棟であった。B・C棟では糖度と酸含量が低く、果皮の着色も劣った。 C棟の飽和光下での個葉光合成速度はB棟を上回ったが、B棟で二酸化炭素濃度を一時的に200ppm高めて測定した光合成速度に比べると低かった。B・C棟の個体群光合成速度を換気速度、CO2供給速度ならびに棟内外のCO2濃度から推定したところ、C棟の光合成速度は5~8月の晴天日日中を中心にB棟を上回り、年間光合成量は18%多いと計算された。リンゴ樹の年間乾物生産量はC棟がB棟を17%、B棟がA棟を32%上回ったが、果実への年間乾物分配量は棟間に顕著な差はなかった。また各棟内では多潅水区の乾物生産量が標準潅水区をわずかに上回った。個葉のSPAD値やクロロフィル含有量に棟間で明瞭な差はなかった。 土壌の全炭素量は特にC棟で前年より顕著に減少した。B・C棟はA棟に比べて微生物活性や土壌呼吸速度が高い傾向があった。土中CO2濃度はC棟が最も高かった。土壌の全窒素量も特にC棟で顕著に減少したが、土壌間隙水の硝酸イオン濃度やpHに棟間で明瞭な差はなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度はビニールハウスによる環境制御実験の初年度であったため、ハウスの電源供給が遮断されたり、側窓開閉装置が故障するなどの深刻な事案が発生したが、本年はこれらの問題を改善して臨んだため、概ね目標通りの環境制御を1シーズン通して実施できた。センサー類にも大きな不具合は発生せず、予定通りに気象と土壌の環境計測を実施できた。昨年はアブラムシが大発生したが本年は防除体系を変更したところ改善された。本年は開花数が少なかったため、当初計画していた多着果管理を実施できなかったが、本年の花芽着生はかなり改善したので、2021年度には多着果管理を実施できる見込みである。昨年実施できなかった個葉光合成速度の測定や、個体群光合成量の解析も実現できた。当初予定になかったチャンバーによる土壌呼吸速度の測定も、1回だけではあるが実施した。
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今後の研究の推進方策 |
今後2年間は、毎年着果強度を変えながら、基本的に前年度と同じ実験調査を継続することになる。すなわち、A(対照)、B(高温)、C(高温高CO2)の3棟の ビニールハウスにおいて、それぞれ標準灌水区と多灌水区を設定し、3月15日から12月5日まで目標に沿った環境制御を実施して、下記1)~4)の各種調査を行 う。 1)【リンゴ樹】高温によるフェノロジー変化を明らかにするために発芽日、開花日や落葉日を調査する。また、光合成速度の高温/高CO2影響を明らかにするた め、各棟の個葉数枚に対して、光―光合成曲線やCO2-光合成曲線を2ヶ月ごとに求める。ハウス内外のCO2濃度記録と換気装置・CO2発生器の制御記録からB・C 棟の個体群光合成速度を評価する。また、樹の剪定量、収穫量、幹周長や刈草量などを乾物ベースで調査する。更に、リンゴ葉の窒素含有量を非破壊で推定する。 2)【果実】各棟各区の頂芽花芽率や、収穫果実における糖・酸の含有量、硬度や、果皮・果肉の着色などを調査する。更に、各棟果実の貯蔵性の差異も調査する。 3)【土壌呼吸速度】CO2濃度測定機器を各棟各区土壌の2深度に埋め込み、土中CO2濃度を経時的に測定するとともに、数理モデルを活用してその濃度変動を再現 し、土壌呼吸の高温・高CO2による影響を明らかにする。 4)【水分・窒素・土壌有機物の動態解析】各棟各区土壌の2深度において、土壌水分、地温ならびに電気伝導度を継続的に調査するとともに、適宜土壌水を採取 して硝酸態ならびにアンモニア態窒素濃度を計測し、数理モデルに入力して、水分移動と窒素溶脱の実態を解明する。更に各棟各区における土壌有機物や葉・ 枝・果実・刈草中の炭素・窒素含有量を調査し、土壌呼吸や窒素溶脱の結果と併せて、炭素・窒素動態を総合的に解明する。
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