研究課題/領域番号 |
18H03967
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
村上 章 京都大学, 農学研究科, 教授 (80157742)
|
研究分担者 |
西村 伸一 岡山大学, 環境生命科学研究科, 教授 (30198501)
藤澤 和謙 京都大学, 農学研究科, 准教授 (30510218)
渦岡 良介 京都大学, 防災研究所, 教授 (40333306)
福元 豊 長岡技術科学大学, 工学研究科, 助教 (60757350)
鈴木 誠 千葉工業大学, 創造工学部, 教授 (90416818)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 農業水利施設(群) / 豪雨災害リスク / 地震災害リスク / データ同化 / 動学的マネジメント |
研究実績の概要 |
豪雨/洪水時には、表面流と浸透流の両者が堤体表面に作用することで、堤体の侵食、洗堀、泥濘化が発生する。これらは土の表面(土と水の境界部)に特化した現象であり、従来の土質力学の考え方では土の表面に生じる現象には対応することができず、土の表面で生じる現象のモデリングが必要となる(要素技術1に対応)。土の表面に作用する流体力(表面流および浸透流が表面の土粒子群に与える力学的作用)を正確に評価し、土の表面で生じる現象の精度ある予測を目指した。予測手段として間隙スケールの数値計算を採用し、計測された流体力と数値計算のそれとの比較検証を行った。具体的には、個別要素法により再現可能な粒子群からなる多孔質体を高精度3Dプリンタによって造形し、それを用いて透水試験と表面粒子の流体力測定を行った。
堤体の密度、ため池水位、地震動などの条件を変えた遠心模型実験を実施した。ため池水位が急低下した後に地震動を受けた場合、ため池堤体上流側のり面で変状が生じることを確認した。さらに、微動アレー観測装置を購入し、動作確認とともに基礎的な実験を行った。表面波探査試験結果からせん断波速度構造を同定するため、三次元動的有限要素法を用いたインバージョン技術の開発を行った。汎用的に用いられているインバージョンは水平半無限地盤を想定しているため、実情に合わない場合が多い。本ツールの開発によって、表面波探査の汎用性を高めることが期待できる。
豪雨時に河川水位上昇に伴う河川堤防の安全性を定量的に評価するために、河川堤防の湿潤破壊と越流破壊を対象とし、河川水位の計測データからハザード曲線と地下水を考慮した円弧すべり法によるフラジリティ曲線を推定し、年破壊確率を算定して維持補修計画に役立てるリスク指標を算定した。ここで、越流破壊まで河川水位が上昇すると、100%破壊すると仮定し、フラジリティ曲線に取り入れた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高精度3Dプリンタにより球形粒子から成る多孔質材料を造形し、上向き浸透流による透水実験と上層粒子の流体力測定を実施した。透水実験の結果は、多孔質材料の3次元的な間隙構造を再現した流体―粒子連成計算と非常に良好に一致することを確認し、模型実験と同一のスケールでの再現計算が可能となった。これにより、間隙レベルの微視的な数値計算結果の精度を検証できた。上層粒子の流体力測定は、現在のとことばらつきが大きく、実験方法を変えて次年度にも測定を続ける.
2019年度中に微動アレー観測の基礎実験をおよび現地への適用を計画していたが、機器の整備が遅れ、2019年度は基礎実験のみを行った.表面波探査のインバージョンツールの基礎となる部分を完成させることができた.2020年度には現地への適用が可能なツールに完成させる.ため池リスク評価に関して、社会実装に受けた解析を進めており、予定を達成している.
実際の河川堤防断面を対象として、河川水位の発生頻度であるハザード曲線と河川水位ごとの破壊確率であるフラジリティ曲線から年超過確率を算定した。今年度は、特に越流の影響を考慮した年破壊確率を算定した。結果、提体の高さによって越流破壊が湿潤破壊より年破壊確率に及ぼす影響が大きいことがわかった。また、地盤物性値の不確定性によって、最小すべり円弧のばらつきは少ないことを示した。
|
今後の研究の推進方策 |
流体―粒子連成計算結果と透水実験の結果が一致したことは、流体が土粒子に作用する力(または、土粒子が流体から受ける力)がうまく再現できることを意味する。土表面の流体力測定にばらつきのあるため、この点を改善する。既に表面粒子の流体力の計算結果は、流体―粒子連成計算から得ており、後は測定結果を改善し、土表面の流体力のモデリングを行う。また、個別要素法と格子ボルツマン法を連成させた手法を用いて、土粒子の移動を許した条件で解析を実施する予定である。
微動アレー観測の現地試験を実施する。さらに、表面波探査、微動アレー観測、インバージョン技術の結合によって堤体の内部を可視化する。最終的には、可視化された強度分布から堤体リスク評価を行う。また、遠心模型実験で用いた材料の室内土質試験、遠心模型実験の数値解析を実施し、数値解析の適用性を確認する。その後、実験条件でカバーできなかった条件について数値実験を実施し、種々の条件下でのため池堤体の安定性を明らかにする。
実際の河川堤防に沿った数断面を対象として、河川水位の発生頻度であるハザード曲線と河川水位ごとの湿潤破壊と越流破壊の破壊確率であるフラジリティ曲線から年超過確率を算定する。このハザード曲線とフラジリティ曲線から年破壊確率を算定し、その破壊モードを考慮した河川堤防の維持補修計画に供する期待総費用を算定する。
|