研究課題
授乳期の乳腺に遊走する免疫細胞(特にIgA産生細胞)の由来を特定すべく、T細胞およびB細胞を欠く免疫不全マウス(SCID)マウスの授乳期の乳腺に、野生型マウスのパイエル板、鼠経リンパ節もしくは腸間膜リンパ節より単離した免疫細胞を移入し、その後の移入細胞の乳腺への遊走を評価した。その結果、パイエル板由来の免疫細胞をSCIDマウスに移入した場合に限り、乳腺でのIgA産生が認められ、パイエル板が乳腺免疫の発達に極めて重要な臓器であることが示された(結果1)。免疫細胞が乳腺に遊走する際には、授乳期の乳腺から高産生されるCCL28を介した細胞遊走メカニズムが欠かせない。CCL28の受容体はCCR10であり、CCR10欠損マウスの乳腺にはIgA産生が認められないことから、パイエル板より乳腺に遊走するIgA産生細胞は、パイエル板でCCR10発現を獲得していると推測される。そこで、CCR10+/+マウスおよびCCR10-/-マウスのパイエル板より、免疫細胞をそれぞれ単離し、それらを授乳期のSCIDマウスに移入した結果、CCR10+/+マウスをドナーとした場合に限り、乳腺でのIgA産生が確認された。このことは、乳腺免疫の発達に、パイエル板でのCCR10発現が重要であることを示していた(結果2)。これまでの実験は、細胞供給用のマウス(ドナー)と移入用の免疫不全マウス(レシピエント)からなる、異なる系統のマウスを用いた細胞移入試験であったが、乳腺への免疫細胞遊走を同一個体で明らかにすべく、光変換タンパク質であるKikGR発現マウスのパイエル板に紫外線を照射した結果、パイエル板でKikune-Green(緑色)からKikune-Red(赤色)に光変換した赤色を呈するIgA産生細胞が、乳腺で検出された。本結果は、パイエル板から乳腺への細胞遊走を、同一個体で実証した世界初の研究成果であった(結果3)。
1: 当初の計画以上に進展している
初年度の研究を通して、乳腺でのIgA産生(移行抗体産生)の由来を特定できたことは、当初の予想以上に研究が進展していると、自己評価できる。パイエル板が乳腺でのIgA産生に深く関わる臓器として特定されたが、これらは、研究実績の概要の欄に記載した研究成果に加えて、パイエル板欠損マウス等を用いた研究でも実証されており、その信頼性は極めて高い。
乳腺での免疫環境形成に加え、乳腺での微生物環境形成を目的とした以下の課題を実施する。[課題1] 乳腺由来免疫細胞の単離精製と微生物由来のDNA解析:乳腺内に存在する樹状細胞やマクロファージよりゲノムDNAを抽出し、メタゲノム解析に供することで、それらの細胞が貪食処理する微生物を特定する。さらには、乳腺組織の微生物叢との関連性を検証し、解析細胞の役割を推測する。[課題2] 乳腺に遊走する樹状細胞、マクロファージの由来の特定:授乳期のKaedeマウスの様々な臓器(例:結腸、盲腸、空腸、回腸、肝臓、脾臓、乳腺など)に、紫外線をそれぞれ照射する。照射翌日、乳腺組織より単離した細胞を、樹状細胞、マクロファージを識別するためのフローサイトメトリー解析に供する。本課題から、乳腺へのそれらの細胞の遊走に関わる臓器が特定される。[課題3] 乳腺の微生物叢形成に関わる免疫細胞の特定:小課題1、2から、乳腺の微生物叢形成に関わる免疫細胞のサブセットおよび、その由来の推測が可能になる。そこで小課題3では、特定細胞を欠損するマウス(例:樹状細胞欠損マウス:CD11c-DTR)の乳腺での微生物叢の発達をメタゲノム解析により明らかにすることで、乳腺の微生物叢形成に関わる免疫細胞を特定する。[課題4] 乳腺の微生物環境の向上を可能にする新概念の構築:慢性化乳房炎マウスモデルを作出し、特定される乳腺の微生物叢形成に関わる細胞が存在する臓器より採取した健常マウスの由来の微生物を作出マウスモデルに移植することで(例:糞便移植)、慢性化乳房炎防除効果を実証する
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