研究課題
ヒストン変異体に着目して遺伝子発現リプログラミングのメカニズムの解明を試みることを計画した。すなわち、受精前後におけるヒストン変異体のゲノム上の配置の変化を解析し、その変化がクロマチン構造および遺伝子発現に及ぼす影響を明らかにする。さらにその変化を調節するメカニズムを解明することで遺伝子発現リプログラミングの調節機構を明らかにしていくという計画となっている。本年度は、特にヒストンH3変異体について、受精前後におけるクロマチンへの局在の変化とその発生への役割を調べた。まず、H3変異体の免疫染色を行うことに際し、H3.1とH3.2はアミノ酸が1残基しか異なっておらずこれを区別できる抗体が存在しないため、この両方を認識する抗体を用いることにした。その結果、H3.3は受精前後およびその後の初期発生過程においてほぼ一定の割合で核局在が認められたのに対し、H3.1/H3.2は受精前から受精後の1細胞期まで核内に非常に低いレベルでしか検出されなかった。その後2細胞期の中期から次第に核局在が増加していくことが分かった。ただし、検出感度を上げてさらに詳細に解析したところ、1細胞期胚ではH3.1/H3.2は雌性前核にのみ核小体付近のヘテロクロマチン領域に比較的多く局在していることが明らかとなった。次に、1細胞期でH3.1/H3.2の核局在レベルが低いことの生物学的意義を明らかにするために、H3.1、H3.2およびH3.3のcRNAを作成しこれを1細胞期胚に顕微注入した。その結果、H3.3のcRNAを顕微注入した胚は正常に胚盤胞期まで発生したが、H3.1あるいはH3.2のcRNAを顕微注入したものでは、胚盤胞期への発生率が著しく低下した。以上より、1細胞期胚の特に雄性前核のヘテロクロマチン領域においてH3.1/H3.2が低レベルであることが初期発生に重要であることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
本年度の計画は、研究実績の項で記したように、受精前後におけるヒストンH3変異体の局在とその発生への役割を明らかにするものであった。ヒストンH3変異体は遺伝子発現の調節に重要な役割を担っていることから、その受精前後の変化はゲノムリプログラミングのメカニズムを解明するための重要な基礎情報となるものである。そして実験の結果、H3変異体の中でH3.3のみが1細胞期胚で多く核局在しており、H3.1およびH3.2は非常に低いレベルであることが明らかとなった。この結果は、H3変異体が1細胞期における特異的な遺伝子発現に関わっている可能性を示すものであり、今後の解析により受精前後の遺伝子発現リプログラミングのメカニズムの解明が大きく進展することが期待される。したがって、本研究プロジェクトは、ここまでの結果で十分な進展があったものと考えられる。
(1)1細胞期胚においてH3.1/H3.2変異体が低レベルであることの生理学的意義の解明-とくに遺伝子発現調節への役割についてこれまでの結果より、H3.1/H3.2が1細胞期胚で核局在することにより発生停止が起こることが明らかとなったが、その原因は明らかになっていない。そこで、H3.1/H3.2のcRNAを顕微注入した胚での転写活性および遺伝子発現パターンを解析する。また、発生停止の原因が遺伝子発現の異常であるとは限らないことから、DNA複製についても解析を行う。また、受精前の卵においてもH3.1/H3.2は低レベルであることから、その生理学的意義を調べるために1細胞期胚同様にこれらのcRNAを顕微注入することでその卵形成への影響を調べる。(2)2細胞期以降にH3.1/H3.2の核局在が増加することの生理学的意義の解明2細胞期にH3.1/H3.2の核局在が増加するが、これをRNAiにより抑制することによる遺伝子発現パターンおよび発生への影響を調べる。以上の実験により、H3変異体のゲノムリプログラミングあるいは遺伝子発現リプログラミングへの関与を明らかにしていく。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
Proc. Natl. Acad. Sci. USA
巻: 115 ページ: E6780-E6788
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