研究課題
本研究は、「制限増殖性ウイルスを基盤とする動物インフルエンザの統括的制御」という題目で、1回感染型非増殖性ウイルスの鳥インフルエンザワクチンへの応用、および哺乳類インフルエンザの制御法の開発を最終目的とする。本年度、H5N8高病原性鳥インフルエンザがわが国に侵入し、養鶏業に莫大な被害を及ぼした。この状況を鑑みH5ワクチン開発に焦点を絞った。感染予防効果をもつ弱毒生ワクチンの病原性復帰という問題点を解決する方法として、弱毒ウイルスHAとのキメラ化を考えた。キメラHAの開裂部位は強毒化しない弱毒型配列であるため病原性復帰はしない。さらに、NA遺伝子を欠損させGFP遺伝子を搭載した改変NA分節によりウイルスに制限増殖性を賦与した弱毒化を計画した。本年度はこの目的で、弱毒ウイルスA/duck/Hokkaido/1058/01(H4N5)のリバースジェネティクス系を構築した。今後、組換えウイルスを構築し、H5ワクチン候補株を評価する。本年度は、伴侶動物であるネコが新たなパンデミックウイルスを生み出す中間宿主になる潜在性を検証する目的で、ネコウイルスのヒト呼吸器由来A549細胞への馴化で生じる遺伝子変異を調べた。馴化ウイルスにはHAのヘッド領域とストーク領域およびNAの膜貫通領域に複数の変異が入っていた。リバースジェネティクス系を構築して調べた結果、HAのストーク領域におけるHA1-H16Q、HA2-I47T、HA2-Y119Hの変異が重要であることがわかった。これらのHA変異により膜融合活性の至適pH域が変化した。したがって、H7N2ネコウイルスが、ヒト呼吸器細胞のエンドソーム内pHに適応することにより、ヒトへの効率的な感染性を獲得する潜在性があることがわかった。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、今後の研究に必須である2種類のリバースジェネティクス系の構築に成功するとともに、動物インフルエンザウイルスがヒトへの馴化に必要となる遺伝子変異の同定に成功した。これらの成果により今後の研究が滞りなく進展するものと期待できる。
鳥インフルエンザワクチン開発の項目においては、H5ウイルスを対象に絞って弱毒生ワクチン候補株の作出を目指す。伴侶動物インフルエンザウイルスの解析項目においては、現在中国等で広がっているH3N2イヌウイルスを対象にして、その人への感染性獲得機構の解明と制御方法の開発を目指す。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 2件)
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