研究課題
本研究は、哺乳類メスにおける「卵胞発育」と「排卵」を制御する弓状核および前腹側室周囲核(AVPV、種によっては視索前野)のキスペプチンニューロンへのエストロゲンのフィードバック機構に着目し、卵胞発育を支配する負のフィードバック、および排卵を支配する正のフィードバックによる性腺刺激ホルモン分泌放出ホルモン(GnRH)/性腺刺激ホルモン分泌制御の分子メカニズムの解明とその応用の検証を目的とする。本年度の研究により、以下の成果を得た。キスペプチン遺伝子(Kiss1)-floxedマウス・ラットを作成し、エストロゲンの負のフィードバック部位である弓状核特異的にKiss1のノックアウト(KO)を行い、同キスペプチンニューロンが卵胞発育中枢であることを証明した。また、ヒストン修飾蛋白RBBP7がKiss1発現に促進的であることを明らかにした。また、キスペプチンニューロンに発現する受容体探索により得たGPCR候補であるGPR101のリガンドGnRH(1-5)が、同ニューロンに作用してGnRH/LH分泌を促進することを明らかにした。また、低栄養モデルラットにおいて、エストロゲン依存性に室傍核ダイノルフィン(Dyn)ニューロンが活性化し、弓状核キスペプチンニューロンに発現するDyn受容体を介してLHパルスを抑制することを証明した。さらに、反芻家畜モデルのヤギを用いて、脳内へのニューロキニンB投与が弓状核キスペプチンニューロンに作用し、GnRH/LHパルスを促進すること、また脳内へのカルシトニン受容体リガンド(アミリン)の投与がGnRH/LHパルスジェネレータ(弓状核キスペプチンニューロン)の活動を短期的には促進、長期的には抑制することを明らかにした。加えて、ヤギ弓状核および視索前野キスペプチンニューロン由来不死化細胞株を確立し、今後のin vitro実験に資する結果を得た。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度の研究実施により、17報の原著論文および2報の総説・著書(全て査読有)を発表し、研究計画よりも極めて大きな進展があった。以下が進捗の概要である。コンディショナルKiss1 KOマウス・ラットによる卵胞発育中の証明: Kiss1-floxedマウス・ラットを作成し、弓状核特異的にKiss1のKOを行い、弓状核KISSニューロンが卵胞発育中枢であることを証明した(Ikegamiら, 2020; Minabeら, 2020; Nagaeら, 2021)。生殖中枢キスペプチン(KISS)ニューロンにおけるRBBP7の役割:KISSニューロンにおいて、ヒストン修飾蛋白RBBP7がKiss1発現に促進的に作用することを示した(Horihataら, 2020)。生殖中枢KISSニューロンに発現する受容体の制御機序:ラットKISSニューロンに発現するGPR101のリガンドGnRH(1-5)の脳内投与が、LH分泌を促進することを明らかにした(Iedaら, 2020)。低栄養によるLHパルスの抑制が室傍核ダイノルフィンニューロンに仲介されることを証明した(Tsuchidaら, 2020)。ヤギ(反芻家畜モデル)を用いたキスペプチンニューロンに発現する受容体の役割:ヤギ脳内へのカルシトニン受容体リガンドの投与がGnRH/LHパルスジェネレータの活動を短期的には促進、長期的には抑制することを発見した(Kitagawaら, 2020)。またニューロキニンBが、GnRHパルスを促進的に制御することを証明した(Sasakiら , 2020)。ヤギキスペプチンニューロン由来の不死化細胞株の樹立:ヤギ弓状核および視索前野KISSニューロン由来不死化細胞株を確立した(Suetomiら, 2020; Ohshimoら, 2020)。
本年度は、本研究課題の推進で蓄積した成果を多数の論文として公表できた。今後は、特に弓状核キスペプチンニューロン (卵胞発育中枢)、およびAVPVキスペプチンニューロン (排卵中枢) において、特異的に発現することを確認したが、機能が未解明である他のエピジェネティック制御候補因子やエストロゲン受容体共役コファクター等の機能解析を実施する。具体的には、本研究で得られた不死化キスペプチンニューロン株を用いて、候補因子のKiss1遺伝子発現への効果を検証する予定である。また、上記2群のキスペプチンニューロンに発現する機能が未解明の受容体(GPCRなど)について、候補リガンドのキスペプチン放出効果を、in vitroで細胞内カルシウム濃度への効果を確認し検証する。さらに、候補リガンドをin vivoにて、ラットやヤギ脳内に投与しGnRH分泌の指標であるLH分泌への効果を検証するとともに、候補因子のヤギ弓状核キスペプチンニューロン(GnRHパルスジェネレータ)活動への効果を検証する予定である。加えて、本研究の実施により、キスペプチンニューロンを常時可視化した遺伝子改変ラットの作製に成功し、エストロゲンによってKiss1発現が抑制された弓状核キスペプチンニューロンや、エストロゲンがないため同定できなかったAVPVの同ニューロンを可視化する事が可能となったことから、エストロゲンの有無によってキスペプチンニューロン内で発現が増減する遺伝子を解析し、得られた候補因子が、弓状核やAVPVのキスペプチンニューロンに対するエストロゲンフィードバック効果を仲介するかを探索する予定である。さらに、ラットモデルで得られたKiss1遺伝子発現やキスペプチン分泌を制御する候補因子に関する知見を、ヤギ、ウシに応用できるかを検証する予定である。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (18件) (うち国際共著 3件、 査読あり 18件、 オープンアクセス 11件) 学会発表 (10件) 図書 (1件)
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