研究課題
平成30年度初めの時点で投稿中であった亜鉛イオンによるERp44の構造機能制御に関する論文について、平成31年2月にNature Communications誌に掲載された。平成30年度は、1)ERp44の機能制御を司る亜鉛トランスポーターの同定、2)亜鉛トランスポーターZnTファミリーの高分解能構造解析の二つを主たる研究課題として進めた。1)の課題については、ゴルジ体に存在する亜鉛トランスポーターZnT4-7をそれぞれ系統的にノックダウンした細胞中でのERp44の局在とクライアントタンパク質逆輸送活性を解析し、ZnT7がERp44の機能制御を司る主たる亜鉛トランスポーターであることを突き止めた。現在、ZnT7によるERp44の機能制御機構の詳細を解明するため、野生型細胞とZnT7ノックダウン細胞における小胞体、シスゴルジ、ミディアルゴルジ、トランスゴルジの亜鉛イオン濃度を定量するための細胞イメージング実験を進めており、多くの重要な知見が得られつつある。2)の課題については、ERp44の機能制御に特に関わることが判明したZnT7にフォーカスを絞り、そのクライオ電子顕微鏡による高分解能構造解析を精力的に進めている。すでに、ZnT7を安定発現するためのヒト培養細胞を作製し、1リットルの細胞培養液から約0.3 mgの精製ZnT7を得ることに成功した。さらにZnT7をナノディスクと呼ばれる脂質二重層に再構成することに成功しており、そのネガティブ染色電顕画像を取得した結果、今後のクライオ電子顕微鏡による構造解析が十分期待できる結果であった。ZnT7の構造決定が一日も早く達成できるよう、引き続き精力的に実験を進める。
2: おおむね順調に進展している
研究実績の欄にも記したように、投稿中であった亜鉛イオンによるERp44の構造機能制御に関する論文について、平成31年2月にNature Communicationsに掲載された。またERp44の機能制御に関わる亜鉛トランスポーターの同定についても系統的ノックダウン実験により、非常にクリアな結果が得られ、ZnT7が主たる因子であることを突き止めた。亜鉛トランスポーターの構造解析について、最大のボトルネックは構造解析に足る量の精製タンパク質を安定に得ることと考えていたが、それについてもZnT7の安定発現細胞株を構築し、またナノディスクに再構成することでZnT7の安定化を図り、ゲルろ過カラムによる精製が可能となった。さらにナノディスクに再構成したZnTについてネガティブ染色を行い、今後のクライオ電子顕微鏡による単粒子解析が可能と思われる結果が得られた。このように、国際一流雑誌に論文を発表し、また平成30年度に掲げた二つの研究課題いずれもが予定通りに進んでいるため、おおむね順調に進展していると判断した。
ERp44の機能制御を担う主たる因子がZnT7であることを突き止めたが、一方でZnT7によるERp44制御のメカニズムについては未だ解明できていない。一つの可能性として、ZnTファミリーによって分泌経路における局在が定められており、どのZnTがどの区画にどの程度亜鉛イオンを取り込むか厳密に制御されていることが考えられる。このことを詳細に解析するには、各区画において亜鉛濃度を正確に定量するための亜鉛特異的な高感度プローブの開発と、超解像度顕微鏡による細胞イメージングが必要である。実際、高感度亜鉛プローブを東北大学多元物質科学研究所の水上進教授との共同研究ですでに開発に至り、各ZnTノックダウン条件下での各区画における亜鉛濃度を超解像顕微鏡により解析を進めている。その結果、多くの興味深い知見が得られつつあり、ZnT7によるERp44の機能制御機構についても解明されつつある。またZnT7の構造解析について、X線結晶構造解析のみならず、クライオ電子顕微鏡による解析にも本格的に着手しつつある。すでにヒト細胞を用いた発現精製系を構築し、ナノディスクに再構成することにより安定な素性のZnT7の調製に成功している。今後、クライオ電子顕微鏡観察のためのグリッド調製条件や測定条件を詳細に検討することにより、構造解析が達成できると考えている。また、多くの膜タンパク質で成功例のあるlipid cubic phase法を用い、ZnT7の結晶構造解析にも挑戦する。我々はすでにヒト由来カルシウムポンプの結晶構造解析を同方法で成功しており、そのノウハウを有している。ZnT7の結晶構造解析についても、本研究期間中に達成できるよう最善を尽くす。
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