研究課題/領域番号 |
18H03981
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
船津 高志 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 教授 (00190124)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 1分子計測(SMD) / ナノバイオ / 光ピンセット / 温度生物学 |
研究実績の概要 |
DNA に蓄えられた遺伝情報は一時的にmRNA にコピーされ、リボソームによってタンパク質に翻訳される。翻訳の制御は、生命活動の根幹に関わる重要なプロセスである。本研究では、新たな遺伝子発現制御機構として注目されている以下の3つの翻訳発現制御について、翻訳制御の分子機構を明らかにする。本年度の研究成果は以下の通りである。 ① miRNA による遺伝子発現制御 まず、細胞内miRNA可視化法の確立を目指した。蛍光標識したmiRNA前駆体を合成し、細胞内に直接導入することで内在性の生合成過程を通して成熟させることを狙った。ループ構造を持つ蛍光性pre-miRNAをマイクロインジェクション法により細胞内へ導入すると、内在性の生合成過程により効率よくRISCに取り込まれた。 ② 翻訳アレストによる遺伝子発現制御 新生SecM鎖のリボソーム外領域による翻訳アレストの安定化には78-95残基が寄与していることが分かった。次に、Y80, W81およびF95にBpaを導入し、光架橋反応を利用して接触している分子を調べた。その結果、架橋相手はリボソームタンパク質uL23であると同定された。 ③ ストレス顆粒による遺伝子発現制御 蛍光性ポリマー温度センサーをマイクロインジェクション法により細胞内に導入し、SGを誘起する酸化ストレス(sodium arsenite)やERストレス(thapsigargin)を負荷する前後において蛍光寿命測定を行った。その結果、どちらのストレス時も細胞内平均温度が1.4℃上昇した。これにより、SG形成時に細胞内温度が上昇することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
① miRNA による遺伝子発現制御 蛍光標識したmiRNA前駆体を合成し、細胞内に直接導入することで内在性の生合成過程を通して成熟させた。これにより、細胞内miRNA可視化法を確立できた。 ② 翻訳アレストによる遺伝子発現制御 新生SecM鎖のリボソーム外領域が翻訳アレストを安定化することを見出した。また、この安定化には78-95残基が寄与していること、相互作用する相手はリボソームタンパク質uL23であることを明らかにした。 ③ ストレス顆粒による遺伝子発現制御 細胞にストレスを加えてSGを形成させると、細胞内平均温度が1.4℃上昇することを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
① miRNA による遺伝子発現制御 RISCと標的mRNA との結合を解析する。let-7a-1 miRNA と、標的mRNA としてRas のmRNA を用い、培養細胞に強制発現させる。標的mRNA の翻訳抑制を可視化するため、Ras の遺伝子とGFP の遺伝子を繋げておき、GFP の蛍光強度を定量することにより翻訳抑制を評価する。 ② 翻訳アレストによる遺伝子発現制御 光ピンセットによるSecM 翻訳アレスト複合体への張力負荷と翻訳再開を実証する。ジゴキシゲニンを付加したssDNA を結合させた長鎖のmRNA を鋳型として、N 末端にHaloTag を融合したSecM(HaloTag-SecM)をHaloTag PEG BiotinLigand 存在下でin vitro 合成する。翻訳アレスト複合体に抗ジゴキシゲニン抗体・ストレプトアビジンを介して2 つのマイクロビーズを結合させ、光ピンセットを利用して新生SecM 鎖に負荷を加える。翻訳アレストが解除されて翻訳が再開されることを、2 つのマイクロビーズ間の距離をナノメートル計測することにより証明する。 ③ ストレス顆粒による遺伝子発現制御 SG の形成機構の解明と超微細構造の観察を行う。培養細胞のmRNA を、2’-O-methyl 化オリゴRNA を用いて蛍光標識し、SGの構成タンパク質であるG3BO、TIA1 、GTPBP2などを別の蛍光色素で2重染色する。培養細胞に0.5 mM sodium arsenite による酸化ストレスを負荷し、2種類の蛍光色素の分布を超解像顕微鏡観察し、SG の形成機構とストレスの解除に伴うSG の崩壊過程を明らかにする。さらに、mRNAの運動を1分子レベルで解析し、SGの内部微細構造とmRNAの運動性の関係を明らかにする。
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