研究課題
神経の活動には、シナプスで機能する多様な膜受容体複合体が重要な役割を担っており、その機能異常は神経関連疾患を引き起こす。本研究では、てんかんや痙攣に関連するリガンド-膜受容体複合体LGI1-ADAM22とその下流エフェクターであるPSD-95やStargazinに焦点を当てる。LGI1-DAM22-PSD-95-Stargazin複合体の構造研究により、膜を介したシグナル伝達機構と病態発症の仕組みを理解して、将来的な疾患の予防や改善の基礎となる分子構造基盤を確立する。今年度は、細胞外でのLGI1とADAM22との相互作用に重点を置いて研究を進めた。分泌タンパク質であるLGI1は二つのドメインで構成される。N末端ドメインはロイシンリッチリピート(LRR)で構成され、C末端ドメインはEpitempinリピート(EPTP)と呼ばれるβプロペラ様構造を持つと予測されていた。一方のADAM22は一回膜貫通型の膜タンパク質であり、メタロプロテアーゼ様ドメイン、disintegrinドメイン、システインリッチドメイン、EGF様ドメインを細胞外領域に持つ。X線結晶構造解析と多角度光散乱解析、X線小角散乱解析、クライオ電子顕微鏡を組み合わせて研究を行うことにより、LGI1とADAM22がEPTPドメインとメタロプロテアーゼ様ドメインの相互作用を介して結合すること、さらに、二分子のLGI1間の相互作用を介して2:2もしくは3:3の高次の会合体を形成することを明らかにした。さらに、てんかん病態発症のメカニズムが不明であったLGI1の変異が、この高次会合体形成に異常を引き起こすことをin vitroの相互作用解析とマウスモデルにより示した。以上の結果は、LGI1とADAM22がシナプス間隙を跨いで相互作用することでシナプス前終末と後終末とを機能的に繋ぐ役割を担うことを示唆している。
2: おおむね順調に進展している
LGI1全長とADAM22の細胞外領域との複合体の高分解能構造の決定には至らなかったが、複数の構造解析手法を利用することで、LGI1とADAM22の相互作用と高次会合体形成の詳細なメカニズムを明らかにすることができた。さらに、分子レベルから個体レベルまでの機能解析によって、病態発症の新たなメカニズムを明らかにした。以上から、今年度の目的は概ね達成できたと考えている。
細胞外でのLGI1とADAM22の相互作用と高次会合体形成のメカニズムについては、初年度の研究で概ね明らかになった。但し、ADAM22はシナプス後終末側のLGI1の受容体と考えられており、シナプス前終末側の受容体としては別のADAM22ファミリーのタンパク質であるADAM23が想定されているので、LGI1とADAM23との複合体の解析を引き続き進める。また、当初の予定どおり、細胞内での複合体形成とパルミトイル化修飾を介したシグナリングメカニズムについての研究も進める。PSD-95とADAM22やStargazinの細胞内領域との複合体やパルミトイル化したPSD-95、PSD-95の脱パルミトイル化酵素ABHD17の構造と機能の解析を行っていく。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件) 備考 (2件)
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