研究実績の概要 |
近年、我々の研究成果を含めて非典型的な翻訳が続々と明らかになってきており、翻訳周辺には未開の分野が拡がっていることがわかってきた。例えば、我々は、負電荷アミノ酸に富んだアミノ酸配列を翻訳する際にリボソームが不安定化され(Intrinsic ribosome destabilization: IRD)、結果として翻訳が途中終了する現象を世界に先んじて見出した(Chadani et al, Mol Cell 2017)。そこで本研究では、IRDや、疾患に関わる非典型的な翻訳(塩基リピートに関連した非ATG翻訳:RAN翻訳)などを中心に翻訳ダイナミクス制御について、プロテオーム解析なども含めながら包括的に理解することを目的とした。2020年度は、非典型的な翻訳動態に付随したいくつかの現象に関して大きな成果を得た。【研究1】1)翻訳の連続性を保証するリボソームトンネル内の新生鎖の役割(大腸菌)(Chadani et al EMBO J 2021)、2)不連続な遺伝子読み枠から一本のポリペプチドが合成される翻訳バイパスにおけるIRDの関与(大腸菌)、3)大腸菌で見つかったIRDの真核生物での解析、などである。【研究2】疾患に関連した塩基リピートmRNAの一部で開始コドンがないにも関わらず複数のフレームが翻訳され、疾患に関連するRAN翻訳をヒト因子由来の再構築型無細胞翻訳系で解析する準備を行った。【研究3】熱ストレス時にタンパク質が不可逆に凝集するのを防ぐ低分子量熱ショックタンパク質(small Hsp)が自らをコードするmRNAに結合して翻訳抑制をするという新規の翻訳レベルでの遺伝子発現制御を発見した(Miwa et al, Mol Microbiol 2021)。【その他】本科研費で稼働した質量分析によるプロテオーム解析にて多くの共同研究を行い、多数の論文発表に貢献した。
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