研究課題/領域番号 |
18H03985
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
岩崎 博史 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (60232659)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 相同組換え / ReRecA ファミリーリコンビナーゼ / ATPase / Rad51 / Dmc1 / Swi5-Sfr1 複合体 / Hop2-Mnd1 複合体 / DNA鎖交換反応 |
研究実績の概要 |
相同組換えの中心反応は、ATPをコファクターとするRecA ファミリーリコンビナーゼ(ATP依存的組換え酵素)によるDNA鎖交換反応である。このファミリーには、バクテリアRecA、真核生物ではRad51、Dmc1などが属する。RecAファミリータンパク質は、まず、単鎖(ssDNA)と数珠状に結合したプレシナプティックフィラメントを形成し、ドナー二重鎖DNA(dsDNA)に対する相同性検索とDNA鎖の交換を行う。我々は、最近、FRETを用いたDNA鎖交換反応のリアルタイムアッセイ系構築に成功し、分裂酵母 Rad51(spRad51)リコンビナーゼによるDNA鎖交換反応は2つの異なる反応中間体を経て3ステップで進行することを明らかにした。本申請研究では、この研究をさらに発展させ、様々な代表的ATP依存的組換え酵素について普遍性と特異性の検証、相同性認識におけるストリンジェンシー制御機構と補助因子による活性化機構を明らかにすることを目的とする。
当該年度は、次の成果を得た。 3ステップ反応であることを示すさらなる証拠として、2種類の反応中間体の実体を明らかにする必要があった。そのために、spRad51の鎖交換反応の中間体崩壊実験を行い、構造情報の取得を試みた。その結果、初期中間体(C1)は、Rad51-ssDNA プレシナプティックフィラメントとドナーdsDNAが平行に配列した構造で、後期中間体(C2)は、プレシナプティックフィラメントに存在したssDNAがドナーDNAの相補鎖と対合を形成している3本鎖構造であることを明らかにした。以前に明らかにしていた結果と合わせて成果を論文に纏め発表した。さらに、DNA結合部位の変異体や補助因子Sfr1のRad51結合部位、また、Dmc1についても、解析し反応機構に迫ろうとしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
主に次の3つのプロジェクトを遂行している。 1)Rad51 によるDNA鎖交換反応の分子機構解析:spRad51によるDNA鎖交換反応は3ステップで進行することを証明し、論文発表した。その後、ミュータントを用いて、反応機構に迫っている。RecA ファミリータンパク質は、2カ所の保存されたDNA結合部位 (Site1とSite 2) を持つ。Site 1の中には、進化的に保存されたフレキシブルはループが2本あり(L1-ループとL2-ループ)、このループがDNA鎖交換に重要な働きをしていると考えられているが、その詳細は不明である。他のグループで発表されているRecA ファミリータンパク質の構造データをもとに、これら3カ所の変異体を作成した。この変異体は、古典的なアッセイによるDNA鎖交換反応は、ほぼ全くといっていいほど進行しなかった。今回、我々が開発したリアルタイムアッセイ系を用いると、反応が途中まで進行するものもあることが判明した。今後は、これを手がかりに詳細な機構解析を行う。 2)分裂酵母Dmc1の反応機構解析: これまでの解析から、減数分裂特異的リコンビナーゼ分裂酵母Dmc1は、Swi5-Sfr1とHop2-Mnd1の2つの補助因子を利用することが分かっているが、2つの補助因子の作用機序は依然不明のままである。これまでに、これらのタンパク質のすべて高純度に精製し、試験管内でDmc1依存的鎖交換反応系を構築した。現在、2種類の補助因子によるDmc1に対する効果を詳細に解析しているところである。 3)分裂酵母Swi5-Sfr1とRad51の相互作用の解析:これまでの解析から、Sfr1のN末半分にRad51との相互作用が存在することを明らかにしている。該当年度で、NMRやin vivoクロスリンク実験などで、詳細な結合部位を解析した。 このように、研究は概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
これまで遂行した3つのプロジェクトを以下のように推進する。 1) Rad51 によるDNA鎖交換反応の分子機構解析:RecA ファミリータンパク質の構造データをもとに、分裂酵母Rad51のSite 1内の2カ所のDNA結合部位(L1ループの保存されたArg-257とL2ループ内の保存されたVal-295)、及び、Site 2内のDNA結合部位の2カ所のアミノ酸(Arg-324とLys-334)を、それぞれアラニンに置換した変異体(それぞれ、Rad51-L1、Rad51-L2、 Rad51-S2と命名した)を作成し、上述の予備的な結果を得ている。今後は、リアルタイムアッセイ系を駆使して反応のどのステップに欠損があるか、詳細に解析していく予定である。 2)分裂酵母Dmc1の反応機構解:Swi5-Sfr1とHop2-Mnd1を同時に添加すると、 Dmc1の鎖交換活性は劇的に上昇した。さらに、1本鎖結合タンパク質RPAにコートされたssDNAを基質にしたときの促進効果が、Swi5-Sfr1とHop2-Mnd1で大きく異なることが判明した。これらの差異を端緒に、2つの補助因子の作用機序の違いに迫る。 3)分裂酵母Swi5-Sfr1とRad51の相互作用の解析:Sfr1上のRad51結合アミノ酸を同定し、現在その部位の変異体を作成して解析しているところである。精製した変異体Sfr1と野生型Swi5の複合体の生化学的な活性を解析すると、予備的な実験結果は、Rad51結合部位を欠損したSwi5-Sfr1は、Rad51のDNA鎖交換における活性化作用は大きく減少することを示した。今後は、細胞内での機能欠損を調べている予定である。
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