研究課題/領域番号 |
18H03992
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
村川 泰裕 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, チームリーダー (50765469)
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研究分担者 |
高折 晃史 京都大学, 医学研究科, 教授 (20324626)
白川 康太郎 京都大学, 医学研究科, 助教 (80728270)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | エンハンサー / NET-CAGE法 / バイオインフォマティクス / 転写ネットワーク / 白血病 |
研究実績の概要 |
急性骨髄性白血病は、多様性に富んだ臨床像・細胞像を示す難治性の血液腫瘍である。特にAMLではエピジェネティクス異常が重要と言われており、とりわけエンハンサーによる遺伝子の転写制御は、白血病細胞のアイデンティティーの決定に中心的な役割を果たしている。しかしながら、白血病において活性化しているエンハンサーの部位、およびに白血病においてエンハンサーの活性化異常が起こるメカニズムはほとんどわかっていない。エンハンサーは、それ自体から合成されるRNA産物(eRNA)を次世代シークエンサーで検出することで、一塩基レベルの高い塩基解像度で同定できる。しかし、eRNAは合成直後に核内で迅速に分解され、全体の極一部しか検出できない。そこで我々は、細胞内RNAの分画化法を工夫し、mRNAなどの安定性の高い分子だけてなく、eRNAを超高感度にゲノムワイドに検出する画期的な新技術を開発することに成功した。本技術を白血病細胞を含む5種類の代表的な腫瘍細胞に適応することで約2万箇所の新規のエンハンサーを同定することに成功した。さらに、これらのエンハンサーは極めて細胞種に特異的に活性化していることも実証した。本成果は、2019年度にNature Genetics誌に報告された。この新規技術を約100症例の血液腫瘍の検体に適用し、白血病エンハンサー・転写プログラムを包括的に同定することも2019年度中に行った。患者毎の臨床データ、ゲノム情報、RNA発現情報、そして従来法では見えなかった活性化エンハンサー領域などのエピジェネティクス情報も絡めた統合解析により、急性白血病の発生・維持の根源的な分子メカニズムを解明し、新規の治療標的やバイオマーカーの同定を2020年に行う基盤を構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
エンハンサーを飛躍的に超高感度に解析できる改良版CAGE法(NET-CAGE法)の開発に成功し2019年度にはNature Genetics誌に報告する成果を上げた。このNET-CAGE法を、本技術を白血病細胞を含む5種類の代表的な腫瘍細胞に適応することで約2万箇所の新規のエンハンサーを同定し、さらにこれらのエンハンサーが腫瘍のサブタイプごとに極めて特異的に活性化していることを証明した。また京都大学血液腫瘍内科学との共同研究により、京大病院血液腫瘍内科学で採取された合計約100検体の血液腫瘍検体に対して独自の転写開始点解析を行った。これにより従来発見されていない多数の新規エンハンサーを同定することに成功した。さらに、約100症例のそれぞれの白血病検体のプロモーター、エンハンサー、遺伝子発現量、転写ネットワークをゲノムワイドに明らかにして、AMLの包括的ゲノム発現アトラスを作成した。これにより患者毎の転写ネットワークの多様性が評価できる基盤が構築できたと言える。また、国際FANTOMプロジェクト第5期計画でヒトの全身の様々な部位由来の約1000種類のCAGEデータが既に所得されているが、こうしたデータとも照合・比較するための基盤を構築した。上記の進捗により、2019年度に予定している研究計画は終了しており、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度には大きく下記の二つのテーマを推進することで、本申請課題をまとめる。テーマ1:近年の全ゲノム解析により99%近いゲノム変異はタンパク質をコードしない非コード領域に生じていることが示されている。シスエレメントに一定の頻度で認める遺伝子変異が近年相次いで報告されており、さらに遺伝子間領域に生じた変異が新規エンハンサーを形成する例などが発見されている。近年には、膨大な血液腫瘍の全ゲノム解析データが公開されている。非コード領域のシスエレメントに生じたDNA変異が、エンハンサー活性・転写プログラムにどのような影響を与えるのか研究する。テーマ2:臨床データと紐づけたデータ解析を行い、新規の創薬シーズやバイオマーカーを探索し、次世代の医療の創出に繋げる。AMLは、一部の予後良好なタイプを除き、難治性の腫瘍である。また高齢者に発症した場合は治療強度から治療の選択が限られる。しかし、この数十年間、AMLの治療薬はほとんど変わっておらず、新規薬物の開発が期待される。白血病細胞に特異的な抗アポトーシス経路や代謝経路は標的候補になりえる。また、白血病細胞に特異的に発現している膜タンパク質は、抗体療法やCART療法の標的になりえる。さらに、白血病細胞に特異的なスーパーエンハンサーの近傍に位置する遺伝子は、白血病の維持に中枢的な役割を担っているものが多く、こうした遺伝子は標的分子の可能性が高い。加えて、予後の悪いAMLのみで活性化しているエンハンサーや遺伝子は予後予測のバイオマーカーにもなりえる。2020年度は最終年度であり、2019年度までに出した成果およびに2020年に予定している研究の成果をしっかりと発表/公開するとともに、急性白血病の発生・維持の根源的な分子メカニズムを解明し、将来的な造血器悪性腫瘍に対する治療成績の改善にも貢献する。
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