研究課題
これまでプロテアソームによるタンパク質分解はユビキチン化反応が律速であり、ユビキチン化されれば一義的にプロテアソームで分解されると考えられてきた。しかし近年、ユビキチンデコーダー(情報解読)分子群による基質選別機構やアクセサリー分子群によるプロテアソーム活性の巧妙な制御機構が存在することが明らかとなり、プロテアソーム研究は新時代を迎えている。本研究では、ユビキチンデコーダー分子群およびプロテアソームのアクセサリー分子群について、機能連携や使い分け、階層性を明確にすることで「プロテアソームを中心としたタンパク質分解の分子ネットワーク」を作出し、さらに「種々のストレスや細胞分化に伴うプロテアソーム分解ネットワークの変動」を解析することでプロテアソームによるタンパク質分解を統合的に理解する。本年度は以下の成果が得られた。1.プロテアソームを中心とした分子ネットワークマップの作出:プロテアソームサブユニットEGFP-3xFLAGタグノックイン細胞を用いた低ホルマリンクロスリンクIP/MS(免疫沈降/質量分析)解析により30種類の結合分子を同定した。また、主要なプロテアソーム結合分子についてストイキオメトリを明らかにした。2.種々のストレスに伴うプロテアソーム分解ネットワークの変動:高浸透圧ストレスによりプロテアソームがユビキチン化基質とともに核内で液滴構造をとること、シャトル分子RAD23Bがユビキチン化基質とプロテアソームの液-液相分離に特異的に必要であることを見出した。3.ES細胞特異的プロテアソーム結合分子の解析:プロテアソームサブユニットにEGFP-3xFLAGタグをノックインしたマウスES細胞を作出し、プロテアソーム結合分子を網羅的に解析したところ、細胞分化に伴い大きく変動する分子が複数同定された。
2: おおむね順調に進展している
ヒト培養細胞およびマウスES細胞についてプロテアソーム結合分子群の網羅的変動解析法を確立し、プロテアソーム分解の分子ネットワークマップの作成に成功しつつある。また、高浸透圧ストレス下において、プロテアソームがユビキチン化基質とともに核内で液滴を形成すること、核内のタンパク質品質管理を担うことを見出しており、この核内プロテアソーム液滴の形成とクリアランスを解析することで、プロテアソーム結合分子群の機能連携と階層性が存在することが明らかとなった(論文改訂中)。一方、ES細胞に特異的なプロテアソーム相互作用分子も見出している。このように本研究はおおむね順調に進展している。
引き続き以下の解析を実施する。1.プロテアソームを中心とした分子ネットワークマップの作出:これまで約30種類のプロテアソーム結合分子を同定しているが、これらの分子の相互作用部位とプロテアソームの分解サイクルとの関連は不明である。そこで、MS切断が可能な2価性クロスリンカーDSSOによるクロスリンクIP/MS解析を実施し、プロテアソームと各結合分子の相互作用部位を決定するとともに、ATPアナログ、脱ユビキチン化酵素サブユニットRPN11特異的阻害剤などでプロテアソームの分解サイクルを時期特異的に阻害した際の変動解析を実施する。2.種々のストレスに伴うプロテアソーム分解ネットワークの変動:高浸透圧ストレスは解析がほぼ終了しており、今後、ATPレベル低下や酸化ストレス、分子シャペロン阻害剤処理などプロテオスタシス破綻時の分解ネットワークの変動解析に着手する。3.ES細胞特異的プロテアソーム結合分子の解析:分化前後で変動する分子群について、ドキシサイクリン誘導型ノックダウン、あるいは過剰発現が可能な組換えES細胞を作出し、分化前後で発現量を操作することにより、ES細胞の増殖や分化能に及ぼす影響を解析する。
すべて 2019 2018 その他
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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