研究課題/領域番号 |
18H03993
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
佐伯 泰 公益財団法人東京都医学総合研究所, 基礎医科学研究分野, プロジェクトリーダー (80462779)
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研究分担者 |
新井 大祐 早稲田大学, 理工学術院, 講師(任期付) (20624951)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | プロテアソーム / ユビキチン / タンパク質分解 / 質量分析 / 細胞分化 |
研究実績の概要 |
これまでプロテアソームによるタンパク質分解はユビキチン化反応が律速であり、ユビキチン化されれば一義的にプロテアソームで分解されると考えられてきた。しかし近年、ユビキチンデコーダー(情報解読)分子群による基質選別機構やアクセサリー分子群によるプロテアソーム活性の巧妙な制御機構が存在することが明らかとなり、プロテアソーム研究は新時代を迎えている。本研究では、「プロテアソームを中心としたタンパク質分解の分子ネットワークマップ」を作出し、さらに「種々のストレスや細胞分化に伴うプロテアソーム分解ネットワークの変動」を解析することでプロテアソームによるタンパク質分解の統合的理解に挑戦する。 本年度は以下の成果が得られた。 1.プロテアソームを中心とした分子ネットワークマップの作出(佐伯):本年度は2価性クロスリンカーDSSOを用いたクロスリンクIP/MS解析を実施し、新規ユビキチンデコーダーZFAND5についてプロテアソームとの相互作用様式を決定することに成功した。 2.種々のストレスに伴うプロテアソーム分解ネットワークの変動(佐伯):細胞内ATPレベル低下時に細胞質に形成するプロテアソーム顆粒、アミノ酸飢餓によって核に形成するプロテアソーム顆粒が細胞内液滴であることを見出し、前者についてはユビキチンデコーダーRAD23が液滴形成に必須であること、様々な代謝酵素がユビキチン化されて集積することを明らかにした。 3.ES細胞特異的プロテアソーム結合分子の解析(新井・佐伯):神経細胞への分化前後で変動するプロテアソーム結合分子として、UCHL5やKIAA0368などをこれまで見出しているが、本年度はES細胞およびニューロン細胞の培養スケールを拡大し、TMT法による比較定量MS解析を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プロテアソームの活性化に関与することが報告されているZFAND5が、プロテアソームの20Sサブユニットと19Sサブユニットの両者に異なるドメインで相互作用することを明らかにし、ユビキチン化基質をプロテアソームのATPase孔に提示するとともにプロテアソーム複合体の安定化に寄与する可能性が示唆された。一方、ATPレベル低下時に形成するプロテアソーム液滴の解析が進展し、ユビキチン化とRAD23Bの液-液相分離がこの液滴形成を誘導すること、高浸透圧ストレス応答性のプロテアソーム液滴とは異なる構成因子やユビキチン化基質を含有することを明らかにした。細胞分化に関わるプロテアソーム結合分子の機能解析は、新型コロナウイルスの感染拡大により一部遅れが認められるものの、TMT/MS解析による高精度の比較定量解析に成功している。このように本研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
1.ストレス下におけるプロテアソーム分子ネットワークの変動(佐伯) ・ストレス下におけるプロテアソーム結合分子の網羅的変動解析:これまでプロテアソームが高浸透圧ストレスだけではなく細胞内ATPレベルの低下やアミノ酸飢餓によって細胞内液滴を形成することを見出しており、プロテアソーム結合タンパク質が大きく変動することを見出している。今後はさらにストレス刺激時に分解される基質との関連性を含めて解析する。 ・新規シャトル分子の探索:ユビキチン化基質をプロテアソームに運搬するシャトル分子の新規候補としてZFANDファミリータンパク質などを見出している。そこで、モデル基質を用いた試験管内再構築系を開発し、これらの候補分子がプロテアソームによるタンパク質分解を実際に促進するか検証する。 2.ES細胞の分化に伴うプロテアソーム結合分子の同定(新井) ・ES細胞特異的プロテアソーム結合分子の機能解析:これまで分化前後にプロテアソームのアクセサリー分子が増加あるいは減少することを見出している。今後も引き続き、組換えES細胞を用いて該当因子が細胞の増殖や分化能に及ぼす影響とプロテオーム変動を解析する。
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