研究課題/領域番号 |
18H04003
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
松崎 文雄 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, チームリーダー (10173824)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 神経幹細胞 / 複雑脳 / 神経発生 / フェッレット |
研究実績の概要 |
oRGの形成機構の解析: フェレットを用いたライブイメージング解析を行い、oRGの形成は例外なくaRGの分裂にカップルしていることを確認した。この結果は「 外脳室帯幹細胞oRGの形成形成にaRGの分裂軸の揺らぎが関与する」という我々が提案した仮説を裏付けるものである。またマウスの脳発生をモデルとして、増殖期では、神経幹細胞が上皮構造の再生能を持つことを発見した。この再生能はoRG形成のメカニズムによらずoRGの抑制するものであるが、増殖期から神経発生期に移るにつれて、その能力は徐々に減衰してゆくことを発見した。この減衰によって、初めてaRGは脳室面を離れることが可能になり、aRGの再生能の減衰はoRGの形成開始のタイミングを決める重要な要素であることをフェレットを用いて示すことができた。 sRGの形成と分化: sRGは我々が同定した神経幹細胞の維持に必須なNotchの下流に位置する自己複製に必須な転写因子であるHes1を発現するが、そのことはNotchの活性がaRGの姉妹細胞でも高いことを示している。このsRGは脳室名で2回ほど自己複製したのち、proneural遺伝子のAscl1を発現することにより、Hes1の活性を低下させ、中間前駆細胞の連続した対称分裂モードに入ることがタイムラプス解析により判明した。Ascl1の遺伝子破壊により、形成される中間前駆細胞は分裂回数を大きく減らすことが明らかになった。したがって、Notchシグナルによる自己複製能はsRGまで維持されるがそれから後、Ascl1発現中間前駆細胞の状態にシフトしながらも、増殖能ををある程度維持し、神経細胞数を増幅させる大きな要因となることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
妊娠フェレットの価格沸騰により、妊娠フェレットが必要となる度に米国からの輸入に頼ることは予算面から言っても不可能になった。その結果、フェレットを自己繁殖し、一定程度のサイズのコロニーを維持しならが妊娠フェレットを我々自身で作成する必要に迫られることになった。そのためにフェレット飼育室の拡張を余儀なくされ、その工事のため数ヶ月の間フェレットを用いた研究ができなくなった。そこで、その間にマウスを持ちいた脳発生初期の神経幹細胞増殖期の幹細胞の振る舞いの詳細を解析することに集中し、神経幹細胞の上皮構造再生能の発見につながった。この成果はNat. Cell Biologyに2019年発表され、神経幹細胞の増殖期における対称分裂のメカニズムに対する概念を一新するものとして高く評価されることになった。
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今後の研究の推進方策 |
現在、フェレットの小規模なコロニーを当研究室で維持することに成功している。これを生かして、フェレット脳の発生過程で、マウスと大きく異なる特徴である神経細胞系譜の不均一性を検証する。細胞系譜の決定には、次のようなシステムを構築する。まず、GFPとbarcodeで幹細胞クローンを同定・区別する。また、barclock、すなわち、それぞれ異なるCas9の人工的なtarget配列をguideRNA認識配列としてタンデムに配置する。それぞれのtarget配列にはPAM配列から離れた可変領域に7塩基のシトシンを入れておき、dCAS9 (target配列を認識するが切断しない)とdeaminaseの融合タンパク(dCAS9-deaminase)により、経時的にC→T変異が起こるようにする。時間と共に変異がランダムに挿入されるので、これによってそれぞれの細胞の時間的履歴を記録できる。これらのセットをそれぞれRNAとして発現するように強力なpromoter下にに置いたPiggyBacベクターに載せ、in utero 電気穿孔法によりゲノムに挿入するシステムを構築する。これらのカセットを神経発生初期にゲノムに挿入し、神経発生が終わるころ、すなわち、生後20日頃、脳から神経細胞を取り出し、GFPを指標としてFACSで分離し、単一細胞RNA配列解析にかけることにより、幹細胞クローンをまずbarcodeで区別し、barclockの配列の変異の入り方を分析することにより、細胞系譜を再構築する。すでに、このシステムはほぼ完成しており、マウスで動作チェックを行っている。多数の神経幹細胞系譜を決定したのち、その不均一性を解析し、何からのルールがあるかどうかを検証する。
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