研究課題
昨年から本格的に始めた神経幹細胞の細胞系譜の解析の実験系の改良を引き続き行なった。基本としているのはBarclock法と呼ばれる、CRISPR-Cas9系によるgenome editingを用いる方法で、Cas9と deaminaseの融合タンパクであるBase-editor 4EXを用いて、target配列に変異を導入し、その蓄積から細胞系譜を再構成する方法である。技術の確立のため、マウスをモデルとしてテストすることになった。barcodeとbarclock modeleを合わせた長さが600bp程度になり、それを1base単位の正確さで読み取るために、PacBioという方法を採用している。この方法は高価なため、この研究費ではカバーできないため、新学術領域「先進ゲノム支援」に応募し、承諾を得て行っている。また、構築している細胞の経時的時間記録法が実態を反映しているかどうかを確認するため、HEK293という培養細胞系と、in utero electroporationで神経発生初期にマウス脳にbarclockシステム一式を導入し、そこから、primary cultureを作成し、live-imagingで個々の幹細胞の分裂パターンを追跡・記録した後、その幹細胞クローンの各構成細胞から横河SU10を用いて、細胞質を抽出し、RNAをcDNAとして増幅し、barclockの配列を調べた。そしてbarcloc上の変異導入から再構成した細胞系譜とlive-imagingにより得られた細胞系譜を比較し、一致するかどうか検証した。その結果、変異が導入されている細胞間では系譜関係が正しいことが確かめられた。ただし、barclockへの変異導入の頻度が予想より低いため、現在、変異導入頻度をあげるように実験系に改良を加えている。
3: やや遅れている
barclock系を用いて、細胞系譜を正確に決定するには、幹細胞分裂1回あたり、1つ以上の変異が常に入ることが前提である。現在平均では1回を上回っているが、必ず1回は入るという条件をまだ満たしていず、システムの改良を行なっている。この点は重要なポイントであるため、改良を重ね安定してこの条件を満たすシステムを完成させるため、十分な時間をかけて行う価値があると考える。
barclock systemの改良は進んでおり、今年度内に、細胞分裂1回あたり1頻度以上の変異導入が達成される見込みである。それによって、フェレットに実験系を移し、フェレットの細胞系譜を多数取得し、マウスと比較して、ランダムさがましていることを確認したのち、そのばらつきに潜むルールを見出すことにより、複雑脳の幹細胞系譜が脳構築に果たす役割の解析に進む予定である。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件)
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