研究実績の概要 |
主要な海産動物であるシリス科(環形動物門)で見られる「ストロナイゼーション」では、繁殖期になると体の一部分のみが「ストロン」と呼ばれる生殖個体として本体から切り離され、その形成過程では体の途中にストロンの頭部が形成される。本研究課題では、実験室内での飼育が可能であるミドリシリスMegasyllis nipponicaを主な対象種として、ストロナイゼーションの発生制御機構の解明に取り組んだものである。前後軸を持つことは左右相称動物に広く保存された体制であり、通常の動物の発生では前後軸に沿った位置情報によって各器官が形成され、一生を通してその構造と機能を保つことで、個体としての統制が保たれる。しかし、ストロン形成過程で二次的な頭部(ストロン頭部)が親個体の体の途中に形成されることは、通常は最も前端側に形成される“頭部”が前後軸の途中で形成されるという点で通常の頭部形成過程からは逸脱しており、進化発生学的に非常に興味深い。本課題では、これまで断片的にしか明らかでなかったストロン形成過程の組織変遷を包括的かつ詳細に記載し、ストロン形成に関与する候補遺伝子の発現動態を明らかにし、さらに、特異な神経改変機構を明らかにした。 具体的には、ストロン形成の初期からストロンの分離に至るまで形成段階を追って形態的特徴を詳細に明らかにした。また、ストロン形成への関与が予測される遺伝子の発現動態をリアルタイムPCR法によって解析することで、Hoxアイデンティティはそのままに、初期発生時には体の前端側のみで発現するsix3, otx, pax6といった頭部形成遺伝子が体の途中に異所的に発現することによって、ストロンの頭部が形成されることが示唆された。更に、ストロンの頭部神経は、ストロン最前体節に存在する既存の環状末梢神経が肥大することで形成されることが明らかになった。
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