研究課題/領域番号 |
18H04007
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
諏訪 元 東京大学, 総合研究博物館, 特任教授 (50206596)
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研究分担者 |
中務 真人 京都大学, 理学研究科, 教授 (00227828)
加藤 茂弘 兵庫県立人と自然の博物館, その他部局等, 研究員(移行) (50301809)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 人類進化 / 類人猿進化 / 化石 / 中新世後期 / エチオピア |
研究実績の概要 |
エチオピア国立博物館を訪問し、前年度の調査・発掘で得たチョローラ層出土化石資料の整理、同定と評価を進めた。また、チョローラピテクスを産出するBetichaの哺乳動物相の古環境特徴とチョローラピテクスの生態的位置を明らかにすることを目的に、ウマ科、カバ科、キリン科、オナガザル科およびチョローラピテクスについて安定同位体分析のためのエナメル質試料を採取した。並行して、チョローラ層全般の推定年代を精緻化するために前年度に引き続きAr/Ar法の年代測定を進めた。チョローラピテクス化石は80点以上となり、特に保存良好な大型の上顎犬歯が加わったことが重要である。この発見により、チョローラピテクスの小型犬歯の形態とエナメル質特徴を再検討したところ、小型の犬歯は乳犬歯ではなくメスの永久犬歯との見解が妥当であることが明らかとなった。犬歯の性差は類人猿と人類進化における重要特徴であるため、化石資料における性差を推定する新たな方法を用い、中新世の化石類人猿と初期人類の犬歯サイズの性差の進化的変遷について明らかにした。また、チョローラ層出土の類人猿の四肢骨化石(指骨)が一点存在するが、その解釈には人類と現生アフリカ類人猿の共通祖先状態に関する幅広い理解が必須であり、そのために特に足骨、手骨と骨盤の一部についてアルディピテクス・ラミダス等の初期人類と現生および化石類人猿ならびに他の霊長類との比較研究を進めた。その過程で、現生解剖標本と国内の骨標本のCT撮影を進め、海外からレプリカ標本を入手し、比較解析を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
チョローラ層の化石包含層の年代学的枠組みの大枠については既に論文報告してあるが、本研究では、各層準の推定年代の精緻化を進めている。前年度までに下位のTypeサイト化石層準が860万年前、主要類人猿サイトのBetichaと二つ目の類人猿サイトのChifaraが共に約800万年前であることが示されたが、本年度にはAr/Ar法年代値の追加とBetichaとChifaraの類人猿化石サイトの複数の火山灰層の対応関係の検討により、双方のサイトの類人猿化石の年代が実質同じであり790万年前の推定年代が妥当であることを確定することができた。チョローラピテクス化石の研究では、犬歯小臼歯複合体について一定の理解を得たことが重要である。本年度は、歯牙化石の比較観察を全体的に進めると共に特に重要な犬歯標本の詳細な形態比較を実施した。その結果の一つとして犬歯サイズの性差が中程度以上に大きいことが示唆されたが、現生類人猿と主要な中新世化石類人猿と相対化する必要がある。犬歯の性差はまた人類の系統で著しく縮小したため、その進化的変遷過程とチョローラピテクスの関わりを明らかにすることもまた重要である。そのためにナチョラピテククス、ヒスパノピテクス、ウラノピテクス、ギガントピテクスなど鍵となる中新世化石類人猿、初期人類各種とホモ属各種に新たな性差推定法を適用し、犬歯サイズの性差の進化的変遷とその意義について系統だって示した。これらの成果を踏まえチョローラピテクスの評価を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、地質年代学的枠組みの精緻化のためにAr/Ar法の年代測定を実施し古地磁気層序情報と共に総合評価を更新する。チョローラピテクス化石の研究については、レプリカ標本と3次元モデルを用いて比較観察を進め、切歯、犬歯、小臼歯、臼歯それぞれについて評価する。今後は、形態観察、歯冠径等の基礎計測、それと3次元モデルを用いた比較解析を通じ、チョローラピテクスと関連の化石類人猿の系統関係と適応的特徴について解析を進める。指骨化石の評価については、ゴリラ、ウラノピテクスとアフロピテクスなどの四足歩行型の中新世類人猿との比較を進める。
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