研究課題/領域番号 |
18H04009
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
東樹 宏和 京都大学, 生態学研究センター, 准教授 (60585024)
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研究分担者 |
木庭 啓介 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (90311745)
中森 泰三 横浜国立大学, 大学院環境情報研究院, 准教授 (50443081)
馬場 友希 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農業環境変動研究センター, 主任研究員 (70629055)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 群集 / 生態系 / 生物間相互作用 / 食物網 |
研究実績の概要 |
本研究課題ではまず、「菌根チャンネル」と「腐食チャンネル」のそれぞれについて、種レベルの解像度で相互作用網の構造を解明する。その上で、この2つの主要な炭素循環チャンネルが食物/腐食連鎖のどの段階で合流し、やがて地上の食物網へとつながるのか、解明に向けた基礎となる情報やサンプルを収集する。 東樹が得意とするDNAメタバーコーディングでは、複雑な種間相互作用網の全体像を種レベルで推定することができる。その上で、木庭が検出感度を高めた安定同位体分析を適用すれば、メタバーコーディングで関係性が推定された生物種間で、捕食・寄生・相利共生を介した物質のやりとりが実際にあるのか、検証できると期待される。 技術的土台の構築と並行して、サンプルの収集やDNAバーコーディング技術の土台づくりを進める。まず、各地の森林において、土壌節足動物、地表徘徊性節足動物の採集を行う。その上で、トビムシ類やクモ類など、土壌節足動物のDNAバーコーディング・データベースを構築しつつ、食物網構造の推定を行う。トビムシ類については中森が、クモ類については馬場がサンプリングと種同定を行い、東樹がDNAシーケンシングによるリファレンスデータベース構築を担当する。 東樹と馬場の先行研究(Toju & Basa 2018 Zoological Letters)では、ブロッキングプライマーによる捕食者DNAの増幅抑制がうまく機能していなかった。そこで、DNAよりも結合能が高いペプチド核酸(PNA)でブロッキングプライマーを作成し、被食者DNAの効率的検出が行えるのかどうか検証する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度、クモ類のDNA増幅を抑えつつ、餌種のデータを効率的に取得できるPCRプライマーの開発に成功した。先行研究(Toju & Basa 2018 Zoological Letters)で使用していたようなブロッキングプライマーが不要となり、より簡便な分析が可能になる。この新しいプライマーを用いた場合、捕食者であるクモ自体のDNA増幅がかなり抑えられるため、分析コストを低下させることもできる。 上記の手法的な進展に加え、時系列の捕食者群集サンプリングを実施した。毎月中旬に、地表徘徊性および造網性のクモ類を300個体ほどサンプリングし、個別のチューブに保管した。その捕食者1個体1個体からのDNA抽出を進めており、時系列に沿った大量の捕食-被食関係データを取得できる目処が立った。4-5月のサンプルに関して次世代シーケンシングを実施したところ、多様な六脚類が餌種として検出された。 安定同位体分析の精緻化も進んできており、DNAメタバーコーディングと安定同位体分析の融合による重厚な食物網研究の土台ができつつある。また、クモ類やトビムシ類などについて、リファレンスデータベースの作成にむけたサンプル収集・同定・DNA分析も随時進めており、情報インフラの構築も軌道に乗ってきている。
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今後の研究の推進方策 |
DNAメタバーコーディング分析および安定同位体分析について、精緻化・効率化をさらに進め、大規模かつ高精細な食物網分析のプラットフォームを構築することを目指す。 DNAメタバーコーディングに関しては、現時点で非特異的増幅産物がPCRで生じてしまう問題があるため、サイズセレクションをプロトコルに盛り込む予定である。これにより、効率的にターゲットとなる餌種のデータが取得できるようになることが見込まれる。 DNA実験のプロトコルが確立した段階で、昨年採集された月別のサンプルを随時PCR・シーケンシングし、餌種のレパートリーを各クモ種で明らかにする。特に餌内容物の季節変化に着目し、地下部と地上部の餌を季節によってどう使い分けているのか、解明することを目指す。 安定同位体分析については、トビムシ1個体でも同位体比を分析できる技術に向けた高精度化を進める。DNAメタバーコーディング情報で得られた捕食-被食関係の情報を安定同位体分析で裏付けることにより、説得力のある食物網構造の推定に結びつける。個々のトビムシが、菌根菌と腐朽菌のどちらを偏って食べているのか、DNAメタバーコーディングおよび安定同位体の双方で推定が得られれば、地下生態系と地上生態系の間での物質循環に新たな視点を導入できると期待される。 クモ類やトビムシ類などのリファレンスデータベースの構築も、並行してすすめていく。前者については馬場が、後者については中森が引き続き担当しつつ、種同定が済んだサンプルを東樹がDNAシーケンスし、データベースの構築を進める。
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