研究課題/領域番号 |
18H04012
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
狩野 方伸 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 教授 (40185963)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | シナプス刈り込み / 生後発達 / 小脳 / エピジェネティクス / マウス |
研究実績の概要 |
本研究では、プルキンエ細胞の活動がどのような遺伝子発現を経てシナプス刈り込みを引き起こし、永続的な神経回路の変化として固定化されるのかを明らかにするために、エピジェネティック因子に注目した。プルキンエ細胞の活動によるヒストン修飾や、DNAのメチル化に関連する候補遺伝子を、発達期のマウス小脳のプルキンエ細胞においてノックダウン (KD)し、マウスを成長させた後に小脳スライスを作製して、登上線維シナプスを電気生理学的に解析した。プルキンエ細胞にシナプス結合する登上線維の本数とシナプス応答の特性を解析し、登上線維シナプス刈り込みに障害があるかを調べた。令和元年度には以下の研究を行った。 (1) プルキンエ細胞の活動によるヒストン修飾の役割 前年度に引き続きMef2cおよびMef2dのプルキンエ細胞特異的KDの解析を進め、Mef2cとMef2dが登上線維シナプス刈り込みを促進することを確認した。また、HATに関しては、複数のHATを同時にプルキンエ細胞においてKDすることで、シナプス刈り込みに障害を起こす複数の候補を同定した。さらに、プルキンエ細胞特異的にCreを発現するマウスとMef2d-floxマウスの交配を進めて、プルキンエ細胞特異的Mef2dノックアウトマウスを確立して、電気生理学的解析を開始した。さらに、プルキンエ細胞特異的Mef2cノックアウトマウスを得るため、同じCre発現マウスとMef2-floxマウスの交配を開始した。 (2) プルキンエ細胞の活動によるDNAのメチル化の役割 これまでに、Dnmt1およびDnmt3bのプルキンエ細胞特異的ノックダウンにより登上線維シナプス刈り込みが障害されるという予備的結果が得られていた。これを確認するため、Dnmt1およびDnmt3bのプルキンエ細胞特異的ノックアウトマウスを確立し、それぞれの電気生理学的解析を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) プルキンエ細胞の活動によるヒストン修飾の役割 前年度までの研究をさらに進めて、4種類のMEF2のうちMef2cとMef2dが登上線維シナプス刈り込みに関わることが確実になった。これらをノックアウトマウスにおいて確かめ、令和2年度に、登上線維-プルキンエ細胞の生後発達や形態的特徴を精査するために、Mef2cとMef2dのプルキンエ細胞特異的ノックアウトマウスの作製を開始した。Mef2dのプルキンエ細胞特異的ノックアウトマウスをすでに確立し、電気生理学的解析を開始した。Mef2cに関しても、令和2年度の秋までにはプルキンエ細胞特異的ノックアウトマウスを確立できる見通しである。また、HATに関しては、複数のHATを同時にプルキンエ細胞においてKDすることで、シナプス刈り込みに障害を起こす複数の候補を同定した。令和2年度に、これらの候補を単独でプルキンエ細胞でKDしてその効果を調べることで、登上線維シナプス刈り込みに関わるHATを同定できる見通しである。 (2) プルキンエ細胞の活動によるDNAのメチル化の役割 こちらに関しても、前年度までの研究成果をノックアウトマウスにおいて確認するため、Dnmt1およびDnmt3bのプルキンエ細胞特異的ノックアウトマウスを確立し、これらの電気生理学的解析に既に着手した。令和2年度中には、結果が得られ、登上線維シナプス刈り込みにおけるDNAメチル化の役割の理解が進むことが期待できる。 以上から、研究はほぼ当初の計画どおりに順調に進行していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
(1) プルキンエ細胞の活動によるヒストン修飾の役割 これまでに確立したMef2dのプルキンエ細胞特異的ノックアウトマウス(Mef2d-cKO)の解析を行う。生後発達のどの段階で登上線維シナプス刈り込みに異常がみられるかを電気生理学的解析により明らかにする。また、vesicular glutamate transporter 2 (VGluT2)の免疫組織学によって登上線維シナプス終末を可視化し、プルキンエ細胞樹状突起への登上線維の伸展の程度とプルキンエ細胞体上の過剰登上線維シナプスの残存の程度を調べる。さらに、Mef2dがP/Q型電位依存性カルシウムチャネル(P/Q-VDCC)の下流で活性化されるのか、あるいは1型代謝型グルタミン酸受容体(mGluR1) の下流で活性化されるのかを調べる。Mef2d-cKOのプルキンエ細胞でP/Q-VDCCまたはmGluR1をRNAiノックダウンした場合、シナプス刈り込みの障害の程度が加算的になるか、Mef2d-cKOと同程度であるかを調べる。 Mef2cに関しては、2020年度秋までにプルキンエ細胞特異的ノックアウトマウスを確立し、生後の様々な日齢で電気生理学的解析を行って、生後発達のどの段階で登上線維シナプス刈り込みに異常がみられるかを明らかにする。 HATに関しては、これまで、複数のHATを同時にプルキンエ細胞においてKDすることで候補を絞り込んできたが、今後は、個々のHATをKDすることによって、登上線維シナプス刈り込みに関与するHATを同定する。 (2) プルキンエ細胞の活動によるDNAのメチル化の役割 これまでに確立したDnmt1およびDnmt3bのプルキンエ細胞特異的ノックアウトマウスの電気生理学的解析を進める。さらに、Dnmt3aとDnmt3bのダブルノックアウトマウスを作製し、電気生理学的解析を行う。
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