研究課題/領域番号 |
18H04014
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
渡邉 大 京都大学, 医学研究科, 教授 (90303817)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 意思決定 / 大脳皮質 / イメージング |
研究実績の概要 |
ヒトは集団を形成し社会的に行動する。したがって、ヒトの行動原理の神経基盤を理解するためには、このような社会的認知の側面を踏まえたうえで「意思決定」プロセスが「脳という生物学的な仕組み」にどのように実装されているか解明することが重要である。そのためには、他者の心とのインターフェースである音声信号の聴覚情報がどのように抽出され、意思決定の神経回路プロセスにどのように作用するか理解する必要がある。音声信号を直接用いる場合に問題となる音声信号の個体差等の問題を回避するために、まず新規の聴覚刺激を使って、行動選択課題を学習させて、多光子レーザー顕微鏡によるCa2+イメージングによる神経活動計測の実験系を確立し、大脳皮質のマッピングを実施した。さらに脳全体の神経活動マッピングに有用な神経活動依存的に転写される遺伝子群のプロモーターの下流にレポーター遺伝子を発現するトランスジェニック・マウス系統の作成を行なった。 次に、多光子レーザー顕微鏡では困難な自由行動下での課題実施中の個体の前頭前野等のより深部の脳領域からの神経活動計測を行うために、内視顕微鏡によるCa2+イメージングの条件について検討した。その結果、行動選択学習の課程で一部の大脳皮質錐体細胞の神経活動パターンが大きく変化することが明らかとなった。研究遂行上、この現象の本質を見極めることが不可欠であることから、サブタイプ別の神経細胞活動についてイメージングデータ解析手法の条件を検討した(翌2019年度の繰越により実施)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
聴覚刺激を用いた行動選択課題からは、マウスでも微妙な聴覚刺激の差を識別して、適応的に行動を変えることが明らかとなった。さらにCa2+イメージングにより、聴覚刺激に基づく意思決定に関わる大脳皮質領域について、マッピングを実施し、認知行動課題実施中に異なる応答をする神経細胞グループについて解析を進めることができた。また全脳レベルでの神経活動マッピングを目的として、神経活動依存的に転写される遺伝子群のプロモーターの下流にレポーター遺伝子を発現する新規トランスジェニック・マウス系統は、運動系や感覚系等の情報処理プロセスの解析に有用であるだけではなく、ヒトや霊長類のfMRIによる機能マッピングと比較することで、高次の認知プロセスの生物学的基盤解明のツールとしても期待される。
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今後の研究の推進方策 |
作成したマウス系統について、新規環境暴露や感覚刺激、行動課題を実施したのち、免疫組織化学等により神経活動依存的なレポーター遺伝子の発現を確認する。また既報告のCRE-ERを発現するトランスジーン・コンストラクトのマウス系統等との比較を行う。また多光子励起レーザー顕微鏡下に頭部固定した認知行動課題でのCa2+イメージング計測をさらに実施するとともに、行動を説明する数理モデルの構築を試みる。内視顕微鏡イメージングに関しては、自由行動下での認知課題実施中の個体の行動トラッキングの精度向上等にも取り組む。引き続き、内視顕微鏡による多色イメージング・データの信号処理プログラムの見直しを行うとともに、大脳皮質領域のCa2+イメージングの蛍光プローブの条件について検討する。
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