研究課題
時を刻む機構はDNAレベルでコードされており、全身の細胞で数兆個の細胞で時が刻まれる。今年度、我々は、ノンコーディング DNA であるE-boxやD-boxのリズムにおける役割を解明した。その結果、Clock、Bmalでポジティブに、Per、Cryでネガティブに制御されるシスエレメントであるE-boxが、動物個体の適切な活動/体温の日内変動の維持に必須であることを示した。ノンコーディング DNA の重要性は、これまで発生生物学的な見地から、細胞の運命決定や形態形成、個体発生、系統発生を対象とした研究において詳細に解明されているが、発生の段階を過ぎた成体において、ノンコーディング DNA が個体の動的な生理制御にどの程度の寄与を有するのかについてはこれまで確たる証拠が無かった。本研究は、この問題に対し、独自に開発したノンコーディング DNA 点変異マウスを用いることにより、ノンコーディング DNA を介したダイナミックな制御が、成熟したマウスにおいて、活動/体温の概日リズムを生み出すことを実験的に初めて証明した。この研究は、生体リズムの分野にとどまらず、従来の進化発生生物学的な枠組みを超えたノンコーディング領域の生理的重要性を裏付ける重要な知見を提供することができたと考える。また、中枢時計の細胞間シグナルの伝達を担うGPCRであるGPR176のN-結合型グリコシル化が、機能的な受容体発現に重要であることを示した。さらに、ヒトと同じ昼行性霊長類であるマーモセットで、恒常条件下で行動リズムを確認し、社会性刺激での同期現象を観察し、脳活動の概日リズムの存在も明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
概日リズムの転写翻訳制御ループ(Transcription-translation feedback loop: TTFL)は、24時間周期の概日リズム形成のための根源的な分子機構である。このTTFLの場である、ノンコーディング領域に存在するE-boxは、種間を超え、広く無脊椎動物も脊椎動物にも共通なシスエレメントとされる。今回、われわれは、齧歯類(マウス)を用いて、このE-box領域のみのDNA 点変異マウスを用いることにより、ノンコーディング DNA(E-box) を介したダイナミックな制御が、成熟したマウスにおいても、活動/体温の概日リズムを生み出すことを実験的に初めて証明した。重要なことに、現在我々が行っている、昼行性霊長類マーモセットにおいても、時計遺伝子Per1, Per2遺伝子の上流において、このE-box周囲領域は、ほぼ完全に保存されていることである。今回のマウスの結果により、E-box領域はマーモセットにおいても、概日リズムの重要な構造として保存されている可能性が高い。視交叉上核のリズム発振の重要な受容体であるGPR176のタンパク質修飾のメカニズムの解明は、TTFLを超えた細胞間レベルのリズム制御機構の解明につながると期待している。マーモセットの恒常環境下における概日リズムを、行動量のみならず、体温、脳活動での検出も、恒常的に可能となった。今後、昼行性霊長類マーモセットが、ヒトの概日リズム異常研究の有用な実験モデルとなることが期待される。
これまでの研究で、マーモセットも内因性リズムを発振することが分かった。今後、マーモセットの中枢時計があるとされる視交叉上核の検索を、形態学、ウイルスベクターを用いた機能実験を、本格的に進める。さらに、今後、我々は、マウスでのSCN-Gene Projectで得られた成果を、昼行性霊長類マーモセットで検証する。また、多くの種で明らかとなっている、代謝と時計とのかかわりの解明も重要な切り口であり、次年度展開したい。
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Scientific Reports
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