研究代表者らは、クモ毒由来の溶血ペプチドに改変を加え、エンドソーム膜を効果的に不安定化し、抗体などのバイオ高分子の細胞内移行を促進するペプチドL17Eを開発した(Nature Chem. 2017)。L17Eを用いて細胞内に導入された抗体(IgG)によって、細胞内のタンパク質の標的化や、シグナル伝達の制御が可能であった。これらの成果は画期的なものといえるが、現時点では比較的多量のペプチドと抗体が必要である。抗体使用量を1/10あるいはそれ以下に減らすことにより、医療応用を見据えた細胞生物学の基礎研究やin vivoへの適用が確実に視野に入ってくる。本研究では、L17Eの構造の改変、ならびに抗体との細胞への投与法の検討を通じて、抗体の細胞内導入効率の向上ならびに使用量の低減をはかることを目的とした。本年度、L17Eの細胞膜透過促進機序を詳細に検討した結果、L17Eは、エネルギー依存的、かつエンドサイトーシスの極めて初期段階に生理活性タンパク質や抗体を細胞内に送達できることを見出した。この機序は、従来考えられてきた、エネルギー非依存的な直接膜透過や、酸性化されたエンドソームからの脱出とは異なる新規概念に基づくものであると考えられ、今後の更なる精査により有用性を確認して行く予定である。また、新規マクロピノサイトーシス誘導ペプチドSN21を発見し、このペプチドと溶血ペプチドLK15やメリチンとのコンジュゲートを用いて、抗体などのタンパク質や、siRNA、プラスミドなどの細胞内への効率的送達が可能であることを見出した。
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